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第1章 秘められた過去 1
それは遠い遠い昔の話。
小さな国に王宮があって、そこには王を護る者たちが数多く蠢いていた。
その国の王は、まだ年若く幼い少年だった。
その王のすべての警護を委ねられている近衛隊の隊長をしているのがヨウだった。
そして、私はその王の専属の医官のジョウという。
私とヨウは病弱な王の元で顔を合わせることが多かった。
王を護るもの
王を診るもの
毎日顔を合わせてるうちに、王に寄り添うように仕えているヨウに親しみのようなものを感じるようになっていた。
「ヨウ今日も夜通しの警護か?お疲れさま…」
「ジョウお前も今日は宿直か?」
「あぁ王様は昨夜からずっと高熱を出しておられるからな」
「そうか…大変だな…お互いに」
顔を合わせれば他愛もない話をする程度で、それ以上の深いことは何も語らない寡黙なヨウ。
ヨウは若干22歳で王の近衛隊の長を任されていた。
剣の腕も達者で家柄も貴族出身で、女子のように整った憂いを含んだ麗しい顔をした申し分のない立派な青年なのに、その眼はいつも暗く沈んでその端正な口元を緩めることもなかった。
近いようで遠い関係が数年続いている。
私はそんな風に淡々と顔を合わせ過ごしているうちに、うつろな目をしたヨウのことがどんどん気になっていた。
ヨウ。
どうしたら君の目を輝かせてあげられるのか。
どうしたら君が心の底から笑ってくれるのか。
どうしたら君は私のことを見てくれるのだろうか。
そう思い始めて、もうずいぶん時が経った。
このままでは永遠に歩み寄れない。
もっと親しくなるきっかけを作りたくて、異国の本を見てみたいと話していたヨウを思い切って私の私邸に誘い出してみた。
王宮以外で会えば、もう少し気を許してくれるかもしれない。そんな甘い望みを持って…
「ヨウ…前に話していた異国の本が我が家に沢山届いたんだ。今宵は非番だろう?見に来ないか?」
「そうか…」
しばらく沈黙が続いたのち、ヨウは決心したように答えてくれた。
「行くよ。見せてくれ。今宵は満月だな…月夜に王宮の外に出て夜道を歩くのも綺麗だろう」
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