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秘められた過去 2
「凄い数の本だな!」
珍しくヨウの眼が明るく輝く。
そうだった…ヨウは本来なら高貴な身分だ。
剣を持って人を斬るような役ではなく、もっと平和に穏やかに生きられる人のはずだ。
幼い頃から勉学にも励み、知識も豊富だろう。
そんなヨウが何故、このように剣を持ち人を殺めるようになったのか…
それは深くは分からない。
今ヨウが昔を思い出したかのように、この莫大な本の前で胸を高鳴らせているのが
ひしひしと伝わりどこか切ない気持ちになった。
私の存在すら忘れ本に夢中になっているヨウを部屋に残し、静かに見守ることにした。
「ヨウ…もう夜も更けたから今日は我が家に泊まって行かないか?こちらの部屋に寝具を用意させるから…」
私の私邸であれから何時間も異国の本に夢中になっているヨウに声をかけた。
「あっもうこんな時間だったのか。すまない。えっ?だが俺がいたら家の人に迷惑じゃ?ジョウは結婚しているのでは?」
「家に誰もいないよ。私は一人だ。以前そういう縁談話もあったが全部断ってしまったのだ。」
ヨウは意外そうな顔をして、その後ほっとしたような表情になった。
「そうか…そうさせてもらおうか。こんな風に人の家に泊まるのは久しぶりだ」
微かにほほ笑むその表情。
王宮で緊張した面持ちで過ごしているヨウよりも、少し子供っぽい笑顔を浮かべる綺麗な横顔に、なぜか見惚れてしまった。
「おやすみ」
隣の部屋の灯りが消えるのを確認して私も自室で横になるが、ヨウが近くにいると思うとなかなか寝付けない。
ふと耳を澄ますと隣室から何やら小さな音がする。
ヨウの声?
「ううっ…あぁ…」
隣室からヨウの苦しげな呻き声が聞こえてくる。
「ヨウ?君は一体何にうなされているのか…」
あまりに辛そうな様子が心配になり部屋をそっと覗くと、ヨウは苦痛の表情で顔を歪めていた。
「ヨウ?一体どうしたんだ?」
私は思わず部屋に入りその怯える肩をゆさぶり、悪夢から引き戻してあげたくなった。
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