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秘められた過去 6
私の胸に顔を埋めていたヨウは決心したように顔をあげ、躊躇いがちに話し始めた。
ヨウの顔は青白く、その手は小刻みに震えていた。
「ジョウ…お前は俺が王の近衛隊に入る前、国境を警備する高赤軍にいたのを知っているよな?その悲しい結末も…その頃の話だ…」
王は…まだ今の王の叔父の時代だ。
俺は若くして父を亡くしたから、そのまま官僚の道へ進むことはやめて国境を警備する高赤軍に入ったんだ。
高赤軍の隊長は父の友人でもあった人で、人徳者でもあり大変信頼していた。
そんな隊長が王から国境を護り続けた実績を表彰されると聞いて、俺はその日浮かれてた。
まさか王が隊長の実績や名声を妬み、殺すために招いたとは知らずにな。
そう…俺の眼の前で隊長は虫けらみたいに王に殺された。
隊長は王相手に抵抗出来なかったから、本当にあっけなかったよ、その死に際は…。
そして死に行く隊長から次の隊長の重い任を俺は受け取った。
****
王によって刺された隊長はヨウに次の隊長を務める約束をさせると息が途絶えた。
そして、おびただしい血だまりを作りその中へ倒れていった。
「隊長!隊長!あぁ…何故こんなことに!」
王は酔っ払いながら、隊長を一瞥しそのまま視線をヨウに移した。
「ほぉ…」
ヨウの眼は怒りと悲しみとで、涙に濡れ真っ赤になっていた。
怒りに上気した若々しいヨウの表情は、緊張で引き締まっていた。
王はそんなヨウの横顔に興味を持った。
(ほぉ…こいつは女子のように綺麗な顔をしているな。さっき死んだむさ苦しい髭面の隊長よりも、このうら若い青年を余の近衛隊の隊長にして傍に置く方が、ずっと良いではないか。可愛がってやりたいものだ…)
舌舐めずりをして、執拗な蛇のような視線をヨウに向けた。
「 とりあえず、今ここにいる高赤軍の奴らは全員投獄しておけ! そして隊長を受け継いだお前は、後で私の元へくるように!」
そう言い放ち、再び酔ったおぼつかない足取りで王座へ戻って行った。
ヨウは自分が抱いていた王のイメージとあまりにかけ離れている執拗な視線が、自分の身体を撫で回すように向けられているのに、本能的に寒気を感じていた。
夜も更けた頃、看守が牢獄からヨウだけを呼び出し浴場へ案内し、 近衛隊長としての新しい衣を渡し王に会う前に身を清めるように命令した。
良家でまっすぐ清純に育ち16歳からはひたすら鍛練にのみ没頭してきた ヨウには、まだ理解できなかった。これから起こるおぞましいことが何かを…そういう世界が王宮に存在するということも…
身体を洗い始めると、こびりついていた師匠としてこの数年間慕っていた隊長の血が流れ落ちた。
足元に流れていく血を見つめながら、父の亡きあと実の父のように可愛がってくれた隊長との惜別に、涙が自然と溢れてきた。
「ううっ…隊長…俺にはまだ荷が重すぎます…」
「なぜ、あのような目に…」
「隊長、俺は怖いです。これから俺は一体どうしたら良いのか…」
ヨウの涙は堰 を切ったよう溢れ、膝をつき嗚咽した。
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