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春の虹 ~重なる月・1~
ずっと屋敷の前に佇んでいると、ぽつりぽつりと雨が降り始めた。
俺は濡れるのも構わず立ち尽くしていた。すると声がした。
俺が一番聴きたかった人の声だ。
「ヨウ…」
優しく名前を呼ばれて振り返ると、そこにはジョウが立っていた。
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「ヨウ、濡れているよ…」
「どうしてお前が…ここに?」
「ずっとヨウの後ろから付いて来た。珍しく背後の気配に気が付かないほど、考え込んでいたな…」
「ふっ…それはお前だからだ。お前の気だから意識していなかったのだ。それ位、お前には気を許しているのだ。」
少しはにかんだ笑顔をヨウが浮かべた。
珍しいな、ヨウがこんなに優しく穏やかな笑みを浮かべるなんて…
私にこんなにも心を許してくれているなんて、嬉しくなる。
「ジョウ、中に入ってみよう、ここは俺の生家だ。16歳で家を出てから、何度かこうやって見つめていたが、入る勇気がなかった。でも…今日、お前となら入れそうな気がする」
「そうだったのか。しっかり手入れがされていて立派な屋敷だな。」
あたりを見回していると、中から年老いた使用人が慌てて飛び出してきて、ヨウに抱きついた。
「もしや若様でいらっしゃいますか…大きくおなりになって…もうこの世でお会いできないと思っていました!どうしてあれから一度もお寄りになってくださらなかったのですか…」
使用人は興奮して、ヨウをまるで子供のように抱きしめた。
ヨウは恥ずかしそうに顔を赤らめ咳払いをしながら、使用人の肩に手を置いて優しく諭した。
「や…やめろって!俺をいくつの子供だと思っているのだ!」
「若様…本当に待っていました。お帰りになられるのを…」
「あぁ…長い間すまなかった。今日は、俺の大事な友を連れてきた。俺の部屋はどうなっている?中に入れるか?この人と大事な話があるから、お前は食事の手配をしてくれないか。」
「もちろんです!若様のお部屋もいつも手入れしておきました。いつ帰って来られても良いように」
恐らくヨウが幼い頃は子守役だった使用人だろう。
涙を浮かべ愛情のこもった目で、素直に頷いていた。
そして、再び私の方を振り向いたヨウは、何かが吹っ切れたような爽やかな眼差しをしていた。
「さぁジョウ入ろう。今日は一緒にゆっくり食事をしよう。お前とゆっくり語りたい」
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