23 / 73
赤い髪の女 2
王宮の中庭まで来ると、大きな葉の影に白い衣が見えた。
「ジョウっ!」
「どうした?ヨウそんなに慌てて」
「ちょっと来てくれ」
薬草を摘みながら呑気そうに手を振るジョウに駆け寄り、袖を引っ張った。
「どうした?血相を変えて」
「…王様を診てほしい」
****
「王様、医官のジョウを連れて参りました。」
「ヨウ?王様はどこかお加減が悪いのか」
俺の耳元でそっとジョウが不審そうに囁く。
「あぁ…だがまだ内密にしてくれ。お前にだけ診てもらいたい、いいか」
「分かった。人払いを」
王様の寝所にはジョウと俺と王様の3人しかいない。
「足なんだ。王様の…足を診てくれ」
「あぁ…」
ジョウも俺の顔色の悪さから状況を察し、緊張した面持ちで王様の前に膝をつく。
「王様、暫しおみ足をお見せいただけますか?」
「ジョウ来てくれたのか…うん、ここなんだ。ほら…」
王様は素直に足を差し出す。
まだ少年の細い足。
そのか細い足の大腿部の腫れがさっきより増して痛々しい。
ジョウは顔をしかめながら、その部位を触診した。
「あっ…」
「どうしたの?」
「いや…王様…大丈夫ですよ。これは、何か悪いものに刺されたのですよ。少し冷やしましょう。今処置の準備をしてきますから暫くお待ちください。ヨウ手伝ってくれるか」
「ああ…」
足早に医局へ移動するジョウを後ろから慌てて追いかける。
「待てよ。一体どうした?そんなに悪いのか…」
ジョウを王宮の長い廊下の柱の陰に引き寄せ、誰もいないことを確認してから恐る恐る尋ねる。
「あまりいい話ではない」
「…やはり…そうか」
「まだよく診てみないと確かなことは言えないが、私は以前同じような症状の患者を診たことがある」
「それでっ!その患者は、どうなった?」
「…半年で亡くなったんだ」
「えっ」
ガチャン…
俺は思わず右手に握り締めていた剣を落としてしまった。
「それでは駄目だ。王様はまだ12歳だ。もっともっと生きなくてはいけないんだ」
動揺して剣を拾おうとした手が震えてしまう。
「お願いだ。助けてあげて欲しい」
幼い無邪気な笑顔の王様の顔が脳裏にちらつく。
彼は清らかで汚れていない…
まだ早い…
汚れきった俺ならまだしも…
駄目だ。まだ駄目だ。
気が付かないうちに目には涙が潤みだす。
手がブルブルと震え…落とした剣を拾えずにいる俺を、ジョウがぎゅっと力を込めて抱きしめてくれた。
「ヨウ…落ち着け。方法を考えよう」
ともだちにシェアしよう!