「一体どうしたらいいんだ！俺は…あぁ…」 弟のように大切な王様を失うかもしれないという恐怖で躰までも、大きくガタガタと震えだす。 「ヨウ、落ち着くんだ」 取り乱す俺をジョウは柱にドンと押さえつけ、強引に口づけしてきた。 「はふっ…」 俺の肩はまだカタカタと小さく震えていたが、ジョウの温かい息遣いと唇の柔らかさを直に感じると、心の冷静さが戻って来た。 冷静になればここが王宮内だということを思い出し、慌ててジョウの胸を押し、離れようともがいた。 「ジョウ！こんな所では駄目だ、誰かに見られたらどうする？」 「ヨウ…落ち着いたか」 「あっああ…」 確かに震えは止まった。 「取り乱してはいけない。ヨウがしっかりしないといけないんだ」 「そうだな。すまなかった」 「…とりあえず王様には虫の毒だということにしよう」 「分かった」 「少し調べたいことがあるから、今宵医局にきてくれるか」 「行くよ」 「それじゃヨウは護衛に戻れ、いつも通りにしろ、誰にも悟られるな」 「分かった」 ＊＊＊＊ なんとか冷静さを取り戻し王の元へ戻ると、すぐに呼ばれた。 王様は無邪気に聞いてくる。 「ヨウ！ねぇジョウの診立ては？」 ふぅと息を吐き、出来る限り冷静に平静を装い答えるようにした。 「どうやら悪い虫の仕業のようです。少し毒を持っているらしいので、あとで薬を塗りましょう」 「あぁ良かった。なにか悪い病気かと思ったよ。ヨウ、心配した？僕のこと」 「もちろんでございます」 王様は小さな子供のようなあどけない笑顔を浮かべ、俺を手招きする。 「ヨウ、ここに座って、ねぇ甘えてもいい？」 恐れ多いことと分かっているが、横に座り王様の肩をそっと支えて差し上げる。 「どうされました？」 「僕には…母も父ももういないから、寂しいんだ。こういう時はとても。内官に聞いたらヨウも一緒なんだって？」 「はい。私にも…もう父も母もおりません。二人とも病死しました」 「じゃあヨウは怖い夢を見た時はどうしたの？」 「えっ」 「一人は寂しかったろう」 「ええ…まぁ」 「一人で泣いたこともある？」 「…そんなことしません。武将ですから…耐えるのみです」 「そうなのか…」 無邪気な質問にドキリとする。 「今もか？今も一人で耐えているのか？」 「……」 今は違う。ジョウがすぐ傍にいてくれる。 心が乱れそうになると、いつもジョウが俺を温めてくれる。 「ヨウ？」 王様がその愛嬌のある澄んだ眼でじっと顔をみつめてくる。 「なんでしょうか？王様」 「あのね、ヨウが僕のお兄様にだったらいいのに…」 「王様そんな滅相もないことをおっしゃってはなりません」 「ここだけだから、兄弟だったら寂しい時に慰めあえるだろう？ヨウにだって寂しくて泣きたいときがあるはずだから…」 「王様…」 その言葉を受けた途端、鼻の奥がツンとして、涙がじわっと込み上げてきた。 その涙が零れ落ちないように必死に堪えた。