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店長 side.
イケメンが店頭に立っとけば、女性客の反応がいいんじゃないか。
正直に言えば、そんな安易な考えであの顔だけはやたらいい大学生を採用した。
彼を入れることになったキッカケは、働き者の女性アルバイトが結婚を機に退職した事だった。
ふわふわボブが可愛い女の子は、新卒入社した会社が俗に言うブラック企業だったらしい。なんとか3年、頑張ったはいいが体にガタが来て辞めることになり、うちのカフェにアルバイトの面接に来た時には痩せ細っていて第一印象「幸薄そう」だった。
しかし俺自身ブラック企業に身を置いていた事もあり、わりと年の近い彼女とはすぐに打ち解けて仲良くなった。さらに驚くほどの仕事ぶりを発揮してくれて素晴らしい戦力だと内心「さすが俺!見る目あるわ~」なんてほくほくと喜んでいた。
そんな日々が数ヶ月続き、彼女が俺に見せる笑顔にこの子が奥さんだったら毎日楽しいんだろうなあ、なんて妄想が膨らみ始めた頃。
「店長、わたし彼氏と結婚することになりました」
「……ほう」
えー!?結婚すんの?おめでとう!とか、なんだよ彼氏居たのかよー!早く言えよなー!なんて明るい言葉を掛けてあげられたら良かったんだろうが、いかんせん動揺し過ぎてアホみたいな返事しか出来なかった。
3年付き合っていたという彼氏が大企業の営業マンで、プロポーズには0.5カラットの高品質ダイアモンドの指輪を貰ったんだと。幸せそうな笑顔で語る彼女は退職後、専業主婦になるらしい。
交際期間3年って…俺に脈があるのでは、と内心にまにましながら楽しくお喋りしていた夜も彼氏とイチャコラしてたのか。なんだそうか。普通に凹むんだが。
「…よ、良かったね!おめでとう。俺も早く結婚したいよ」
お決まりのセリフを並べながら、とりあえずタブレッドで終わっていた今日1日の売上集計を本社に送り、俺はパタンと画面に三つ折りのカバーを掛けた。
彼女が呼ぶように俺はこのカフェの責任者、店長だ。
とは言ってもいわゆる雇われ店長というやつで、このSNS映えしそうなオシャレなカフェもテイストは本社が決めていて、グランドメニューも最初から決まっている。俺の手腕に掛かっている事があるとすれば、季節限定メニューの考案と、いかにして集客を増やすか、だ。
「店長ならすぐに可愛い彼女できますよ!」
「そうは言うけど出会いがねえ、無いんだよ。誰かいい人居ない?」
半笑いで尋ねる。
もちろん冗談のつもりだった。
彼女は「うう~ん」と真剣に考えてくれているようだったので直ぐに「ウソウソ、冗談だから」と声を掛けようとしたが、彼女の目が輝やく。
「居ます!いい人!」
とても嬉しそうに目をキラキラさせて俺を見つめる彼女を見て、やっぱり可愛いな…と未練がましく思った。
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