ミツへ 君がこの手紙を読んでいるということは、僕はこの世からの脱出に成功したんだね。 あの雪の日、君を道連れにしようと思っていた。 幸せそうな顔を見てたら、幸せな思い出のまま殺してしまおうと思ったが、できなかった。 僕のために命を投げ出そうとしている君を見て、やめた。 ここから逃げ出そうとしたけど、君は非常に賢明な判断で私を諭してくれた。 君は現実主義者だ。 最期の日、人生で一番楽しい時間にしたくて、君を食事に誘ってみた。 西洋の言葉では、アバンチュールだろうか。 そういうものをやってみたくなった。 意外と上手くできて、自分でも驚いている。 君にはたくさん我が儘を言ったが、もう一つ聞いてほしい。 私は、零夜に生まれ変わる。 変なことを言っていると思うだろうけど、七つまでは神のうちという。 だから、肉体という器を捨てた私もあの子の体に宿ることができるかもしれない。 馬鹿なことだと笑うかもしれないけど、私は信じている。 だから、零夜を、私を大切に育てて欲しい。 今度こそ、本当に一緒になれたらと思う。 こんな弱い私を最期まで愛してくれて、ありがとう。 君の人生が幸せであるように 愛しています 鷹取零一 大正15年3月8日 追伸 字が上手になったね。君の努力に敬礼。