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昭和22年、夏

友人のR君は鷹取(たかとり)家という華族の分家でそれなりに裕福な家の出だった。 「君、論文の資料探してるんだって?郊外に本家があって、売りに出されてるんだ。あそこならたんまり本もあるし、気になるものは持ってってもいいよ」 そう言われ、車で三時間かけてここに来た。 聞くと、本家の人間は奥方しか残っていないらしい。 27歳という若さで鷹取零一(れいいち)氏が逝去され、生まれたばかりの息子・零夜(れいや)と奥方が遺された。 ……今から五年前、零夜は17歳の時に出奔し、行方知れずとなった。 「零夜は密葬されて、死んだことになってる。……零夜は26歳上の使用人と出ていったんだ」 「身分差と年の差も越えた、愛の逃避行か」 私がそう銘打っていると、R君は「その使用人、男だけど」とさらりと言った。 「え!?」 「ほら、着いたぞ」 前を見ると、赤茶色の煉瓦の屋敷が佇んでいた。 R君と私は管理人から預かった鍵で中に入り、二階の書斎に向かった。 書斎は天井までびっしりと本が並んでおり、可動式の梯子まである。 本の虫にはたまらない。 「この部屋だけ、まるまる欲しいくらいだ」 私がそう呟くと、R君は笑った。 私が圧倒されていると、ゴツっと足元の木箱にぶつかった。 「何だこれ?」 「何かお宝かも知れんぞ」 R君は無理矢理、箱を開けた。 赤い表紙の本が入っていた。 「大正十三年~大正十五年」と背表紙にラベルが貼られている。 僕はその本を取って、ページを捲り、読んだ。 それは次の文章から始まっていた。 大正13年3月15日、晴れ 今日は零一様の誕生会だった

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