1 / 14
昭和22年、夏
友人のR君は鷹取 家という華族の分家でそれなりに裕福な家の出だった。
「君、論文の資料探してるんだって?郊外に本家があって、売りに出されてるんだ。あそこならたんまり本もあるし、気になるものは持ってってもいいよ」
そう言われ、車で三時間かけてここに来た。
聞くと、本家の人間は奥方しか残っていないらしい。
27歳という若さで鷹取零一 氏が逝去され、生まれたばかりの息子・零夜 と奥方が遺された。
……今から五年前、零夜は17歳の時に出奔し、行方知れずとなった。
「零夜は密葬されて、死んだことになってる。……零夜は26歳上の使用人と出ていったんだ」
「身分差と年の差も越えた、愛の逃避行か」
私がそう銘打っていると、R君は「その使用人、男だけど」とさらりと言った。
「え!?」
「ほら、着いたぞ」
前を見ると、赤茶色の煉瓦の屋敷が佇んでいた。
R君と私は管理人から預かった鍵で中に入り、二階の書斎に向かった。
書斎は天井までびっしりと本が並んでおり、可動式の梯子まである。
本の虫にはたまらない。
「この部屋だけ、まるまる欲しいくらいだ」
私がそう呟くと、R君は笑った。
私が圧倒されていると、ゴツっと足元の木箱にぶつかった。
「何だこれ?」
「何かお宝かも知れんぞ」
R君は無理矢理、箱を開けた。
赤い表紙の本が入っていた。
「大正十三年~大正十五年」と背表紙にラベルが貼られている。
僕はその本を取って、ページを捲り、読んだ。
それは次の文章から始まっていた。
大正13年3月15日、晴れ
今日は零一様の誕生会だった
ともだちにシェアしよう!