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大正13年3月15日、晴れ

今日は零一様の誕生会だった。 今日で、25歳になられる。 僕も今日で24歳だ。 零一様は、とても素敵な紳士だ。 背も高く、艶のある黒髪、柔和な物腰、僕のような使用人にも優しくしてくれる。 傍目には、ご主人様と使用人に見える。 僕らには秘密がある。 「……っはぁ、あぁ……っ!零、もう……イかせて……」 「ミツ……私も、もうイく……!」 小さな家の小さな寝台で、零一様と僕は毎晩まぐわっている。 じわりと下腹部に熱を感じた。 僕ものけ反りながら、自分の腹の上に白濁した物をぶちまけた。 「ミツ……今晩も、良かった……」 零一様は汗ばんだ僕の額に口づけをしてくれる。 「……お誕生日、おめでとうございます」 屋敷でも伝えたが、もう一度ここで伝えたかった。 「君もだろ?お誕生日おめでとう。これ、プレゼント」 零一様は椅子にかけていた背広のポケットから、綺麗な小箱を取り出した。 開けると中には、銀のネクタイピンが入っていた。 「……良いのですか?」 「ミツにあげたかったんだ……不満か?」 「不満だなんて!とても、嬉しいです」 零一様は、毎年プレゼントをくれる。 僕もプレゼントは用意するけど、零一様が、衣食住全て与えてくださっているから、お金を持っていない。 百貨店で男物のハンカチーフくらいしか買えない。 「僕は毎年、同じものばかり……」 「ハンカチは何枚あっても困らない。私が好きなデザインを熟知しているのは君くらいだ」 僕の髪を撫でて、深く口づけてくれた。 零一様は、優しい。 出会ったあの日から、僕の全ては零一様のものだ。 僕は8歳、零一様は9歳の時に出会った。 海辺の孤児院の近くに鷹取家の別荘があって、毎年夏になるとそこで過ごされていた。 ある日、鷹取家の長男専属の使用人がほしいと言われ、年の近い孤児たちが集められた。 僕を含む孤児たちは、その孤児院から来た。 「私は鷹取零一。君は?」 零一様は僕の手を取った。 大きくなってから何故、僕を選んだのか聞くと、「小さい君が可愛かったから」と笑いながら教えてくれた。 「三ツ夜(みつや)です……」 「三ツ夜か。ミツと呼んでも良い?」 僕は小さくコクリと頷いた。 「二人きりの時は、零でいいよ。でも、周りに人がいる時は零一様って呼ぶんだ。じゃないと、君が怒られてしまうからね」 僕の耳元でこっそりとそう言われ、コクリともう一度頷いた。 夜明けが近づくと、零一様はお屋敷に戻られる。 この秘密の関係も、今日で終わりかもしれない。 零一様は25歳になられたら、婚約することになっている。 帰り際、僕は思わず、零一様を抱き止めてしまった。 「ミツ、寂しいの?婚約なんて、形だけさ。君との関係は変わらない。恋人だろ?」 その言葉だけが、僕の頼りだった

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