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大正13年3月16日、晴れのち曇り

今日、零一様と芳子様はご婚約された。 前々から綾小路家との間で決まっていた。 そして、25歳になった零一様は正式に鷹取家の当主となった。 零一様が20歳の時、旦那様と奥様は不運な事故で亡くなられた。 その後、すぐに当主になると思われたが、長男が婚約をして初めて当主になるという伝統があり、それに零一様も則った。 月が昇った頃、零一様は訪ねてきた。 僕は矢がすり柄の浴衣に、零一様にもらった紺色の肩掛けを羽織って出迎えた。 「ミツ、やっぱり洋装より着物が似合うね」 零一様と僕は寝台に腰掛け、口づけた。 唇と唇の間が熱く、溶けそうなほど激しくなる。 零一様はするりと僕の帯を解くと、浴衣をはだけさせ、押し倒される。 すぐに零一様は自分の背広とシャツを脱ぎ捨て、僕の体に貪り始めた。 身分という服を脱ぎ捨てて、一個の人間として交わる。 だから、様付けも駄目。 この小さな家は、身分を脱ぎ捨てられる楽園だと、いつだったか零一様が言っていた。 「ミツ」と、僕の名前を何度も呼ぶ。 手慣れた様子で、僕の孔を慣らす。 何年も抱かれた体は、すぐに零一様を受け入れることができた。 思えば零一様に初めて抱かれてから、もう十年経つ とても蒸し暑い8月の昼下がり。 零一様が15歳の時で、夏休み中のことだった。 僕は屋敷の掃除など雑用が終わると、零一様に呼ばれた。 「ミツ、あそこに行こう」 あそことは、屋敷の敷地内に建つあばら家で、僕らの秘密基地。 屋根も朽ちて、大きな穴が空いており、そこから青空が見える。 零一様が学校やお友達の話をし、僕がそれをひたすら聞く。 ひとしきり話すと、零一様と僕はあばら家の床にごろりと横になった。 「ねぇ、ミツ。君は自慰ってしたことある?」 月に一、二回くらいならしたことがある。 それをそのまま伝えると、 「私は最近、毎晩しているよ」 「毎晩……」 僕が驚いていると零一様はくすくすと笑った。 「あまりしないのも良くないんだ。私が教えてあげる」 零一様は僕に服を脱ぐように言った。 僕は半ズボンとシャツ、下着を脱ぎ、靴下と靴だけ履いた状態になった。 僕は零一様の膝の上に座り、股を広げた。 零一様は指で輪っかを作り、僕の陰茎を擦った。 僕は感じたことのない快感が体を巡った。 「あぁ……っ零一様……やだ、怖ぃ……っ」 「零だろ、ミツ」 二人きりの時は名前で呼ぶ。 約束を破った僕に罰を与えるように、激しく擦る。 僕はあまりの激しさに体を痙攣させ、零一様の腕を強く握った。 何かがせりあがってくるのを感じ、陰茎の先から放物線を描いて射精した。 それを見ていた零一様は、興奮されていたのか股間の物が大きくなっていた。 ぐったりとした僕を床に寝かせると、零一様は僕に覆い被さった。 「ミツ、可愛い……ここに、挿れたい……」 熱い劣情を孕んだ目線は、強く切ない。 僕は初め、汚いところだからと拒んだが、それでも求められたため、足を広げた。 零一様も裸になると、自分の先走りを手にとって、僕の孔に塗りつけ、ほぐし始めた。 僕はその異物感に身悶えたが、高貴な零一様が僕の汚いところを一心不乱に弄る光景は僕を興奮させ、一度果てた陰茎はだんだん勃ちあがった。 どれくらい、触られていただろう。 僕の孔は、ぐちゅぐちゅと濡れた音をたて、いつの間にか零一様の指を三本も咥えていた。 「もう、我慢できない」 零一様の熱く滾った陰茎は僕のものより一回りも大きかった。 僕の孔に零一様のモノが押し付けられ、一気に穿たれる。 その圧迫感に僕は声にならない声をあげた。 「きつ……、ミツ、大丈夫?」 僕の体はピクピクと痙攣したが、なんとか収まってきたのを零一様が確認すると動き始めた。 始めは僕を気遣って、ゆっくりと腰を動かしていたが、気持ちよさにだんだんと打ち付けるような激しさに変わる。 蒸し暑さと体の火照りで、汗ばむ。 「ミツ……っ!もう、イく……!」 「れぃ……、僕も……一緒にっ、イき、たいっ!……っあぁ!!」 熱いものが注がれ、零一様のお腹に僕の精液がかかった。 零一様は僕からモノを抜き、僕の隣に倒れ込んだ。 「恋人になろう」 僕は驚いてできないと首を横に振った。 「私はミツを想って、毎晩してたんだ。それにこんなことをしてしまったら、もう元の関係には戻れない。ね?ミツ」 念押しするように、零一様は僕の唇に自らの唇を押し当てた。 こんな関係、いつかは破綻する。 しかし、僕を想ってしていたという告白に言い知れぬ優越感と、主人と使用人という背徳感で僕は胸がいっぱいになった。 「立場が違う?表ではいつも通りにしていよう。恋人になるのは、この場所だけ。ここは、恋人たちの楽園になるんだ」 恋人たちの楽園という甘美な響きが僕をとらえて離さなかった。 その日から、零一様の夏休みが終わるまで毎日この楽園で体を重ねた。 そして、今、その場所は僕が住む小さな家となり、本物の楽園となった。

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