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いっちょん好かんと-3/方言男子くん×クーデレ美人ちゃん

「君の、ソレ……先っちょだけなら……別に……いい」 ベッドに仰向けになって精一杯そっぽを向いていた瀬利珠那(せりしゅな)の言葉に。 彼に覆いかぶさっていた森山浩哉(もりやまひろなり)は思春期に急かされた眼をちょこっと見張らせた。 そこは珠那の兄の自宅マンションだった。 大学生の一人暮らしには贅沢な1LDK。 当の住人は連休を利用してお泊まりデートに出かけており、好きに過ごしていいと弟に留守を任せていた。 いや、正確に言うならば恋人の弟のお守りを押しつけていた。 同じく連休を利用して兄の元へやってくるという家族の面倒を見ろと。 『ハイ、おこづかい、じゃあ今日と明日よろしく』 『あの、はじめまして、珠那くん、ていうか初めて会うのに弟のこと頼んじゃったりして、なんか悪いっていうか、ほんとごめん、ごめんね?』 『森山くんは殊勝だね』 『ぎゃあっ!? 人前でなんしよっと!? ほんっとよそわしか!!』 目の前で男の恋人のほっぺたにキスした兄、耳まで真っ赤になって方言で叱咤する兄の恋人、心の底から白ける珠那。 男女問わず何人ものハートを所構わずバンバン撃ち抜いてきた美形兄とよく似た高二弟。 兄よりも華奢で透明感に満ちた、性別不明な、美人男子。 本能に忠実に生きてきた兄よりも断然潔癖で人嫌いなところもあった。 賑わう駅のホーム片隅、そんな御一行の元へやってきたのは。 『兄ちゃん』 『おまッ、ヒロちゃん、また背ぇ伸びたと!?』 くっつきたがる恋人から逃げるのも忘れて呆然としている兄の真正面にすっと立った弟の浩哉。 平均身長をやや上回る珠那の兄よりも背が高い、180センチ前後だろうか、すっと引き締まったスポーティーな体つきに半袖ハーパン、スニーカー、リュックを背負ってキャップをかぶっていた。 『あ、弟のヒロちゃん、三年で野球部ピッチャーなん、いっつの間にかおいより男っぽくなっとるし、生意気か、またシゲおじさんやヒロコおばさんからいつ見てもあんたら兄弟逆やねってからかわれ、』 『森山くん、そろそろ電車の時間だから』 久し振りに家族と再会して涙ながらに興奮していた森山は瀬利に平然とその場から引き剥がされた。 『じゃあね、ヒロくん、珠那と仲よくしてあげてね』 『弟のくせ兄ちゃんばどんだけ追い越すつもりねっ、ずるかっ』 やがてせわしなくホームを行き交う利用客に紛れて二人は消えた。 残された弟二人。 思春期、初対面同士。 端から見ても機嫌が悪そうな美人男子はため息まじりに初対面二人目となる浩哉を横目でチラリと見上げた。 「……お昼だし。何か食べる?」 チラリと見上げたかと思えばすぐに視線を逸らした珠那に浩哉は。 「ん」 超片言で愛想ない返事をした。 そして始まった寡黙な一日。 ただ刻々と過ぎていく、老夫婦並みに恐ろしく会話のない時間。 「やっぱり多いね。でも座れてよかったね」 「ばッばかたれ……ッなんで膝の上に座らんばと……ッみんなに見られとるッ」 「だって立ってるのきついでしょ」 「ッ……瀬利くん、ばりやぐらしかッ」 兄二人が仲睦まじい(?)時間を過ごす一方で弟二人は冷え切ったような休日を送って、そして。 「君はソファ、使って」 「ん」 夜になった。 ランチはファストフード、観光もなしに兄のマンションへ速やかに引っ込み、互いに距離をとってスマホを延々とタップスワイプタップ、ディナーはコンビニごはん。 恐ろしく非生産的な連休一日目がもうじき終わろうとしていた。 バラエティを流すテレビの前でスマホをタップスワイプタップしていた浩哉をリビングに残し、お風呂を済ませた珠那は無言で寝室に移動した。 洗いたての髪は兄と同系色のハニー色。 すべすべさらさらなお肌が熱いシャワーを浴びたおかげでほんのり上気している。 きちんと設えられていたベッドの端に腰かけた珠那はおもむろに両手で顔を覆った。 「……かっこいい」 なにあれ、すっっっ……ごく、すごくすごくかっこいい。 今まで一度も会ったことない。 ただただかっこいい。 中学時から異性同性と濃厚な交流を築いてきた早熟な兄と違って未だに熟していない、年齢の割に激初心な珠那は、内心困り果てていた。 こんなの初めてだ。 今までは他人と目が合うのが嫌でなるべく視線を逸らしていた、でも、君の場合は……違う。 すごくどきどきする。 目が合ったら世界が止まるような気がして、怖くて、見れない……。 「なんなん、あれ」 テレビの内容が全く頭の中に入ってこない浩哉はぽつりと呟いた……。

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