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彼らは雄っぱいを愛することを誓います-3

全国高等学校バスケットボール選抜優勝大会の県予選に出場した、水無月先生が顧問を務める某公立学校バスケ部。 都心から遠く離れた郊外の総合体育館にて、見事、第一試合と第二試合を突破。 準決勝、決勝を明日の日曜日に控えた彼等は近場の旅館で一夜を明かすことになった。 「お前等、はしゃぎ過ぎるんじゃねぇぞ、風呂は静かに入れ、何か問題起こしたら脳天ゲンコツだからな」 一人でバスケ部を引率する水無月、がつがつ晩御飯を食べる部員達を睨みながらビシッと言う。 「俺が責任もってみんなを監視しています、水無月先生」 才色兼備男子な主将、芦屋がお上品に白米をお口へ運びながら毅然と返事を。 「もっと俺らの今日の頑張りを褒めてくんなーい、センセェ?」 ちゃら男子な副主将、比留間が後輩の肉を奪いながらヘラヘラ抜かす。 「……せんせ……お風呂、いっしょ入る?」 おっとり男子なエース、都があべこべ順番でデザートの杏仁豆腐をもそもそ食べながら問いかける。 「誰がうるせぇお前らなんざと一緒に入るか」 「えっ」 「うそーモチベさがるー」 「……やだ……」 他の部員が夢中で晩御飯にがっつく傍ら、明らかに下心満載な主将・副主将・エースにしょ気られて、水無月、フンと顔を逸らす。 そうして部員達は夕食後、大浴場でぎゃあぎゃあ騒いだ末に駆けつけた水無月に脳天ゲンコツを食らい、半分涙目で大部屋に戻り、あほみたいにぐっすり寝た。 しかしもちろん下心満載の三人は安らかに眠れるはずもなく。 「おい、トイレはそっちじゃないぞ、比留間」 「うるさ、そっちこそわざわざ髪セットしてどこ行くつもり、むっつり君?」 「……お先に……」 チームメートがぐーすか雑魚寝状態の大部屋を我先にと抜け出して別室をとっている愛しの顧問の元へ急ぐ。 水無月は角部屋に泊まっていた。 本人は風呂のようだ、覗いてみれば従業員が一人分の布団をせっせと敷いている。 大浴場を覗いてみたい気もしたが三人はトンデモナイ悪戯を思いついた。 「あの、すみません、お姉さん」 「ここに泊まってるの、俺達の先生なんですけどー、ちょっと日頃の感謝を込めてサプライズしたくて?」 「……中に……いても……いい?」 本来ならば断わるべきだろう、しかしかっこかわゆい三人に見事絆された女性従業員、引率の顧問と生徒という間柄だと知っていたこともあって、ついつい……。 よって三人は布団が入れられていた押入れで愛しの顧問を待つことにした。 「狭い、もうちょっと端に寄ってくれ、比留間」 「うるさ! てかなんで一年の都が下で寛いでるわけ」 「……比留間……しね」 「あ、また呪いやがって、てかお前パス出せよ、勝手に突っ走りやがってミスして、都クン、ださーい」 「……う~……」 「全く、ここで言い争いするな、二人とも……あ」 「お」 「……あ」 ガチャガチャと音が聞こえてきたかと思うと愛しの顧問が部屋に戻ってきた。 「はぁ……たまんねぇ」 十分後、まさかの展開に押入れに隠れた三人はどっきんどっきん。 「やべーな、クソ……はぁ」 「これ……シてるのか?」 「シてるよ、もろシてるって」 「……せんせーのひとりえっち……見たい」 悩ましげな水無月のため息連発に芦屋は思わずごくりと唾を飲み、比留間は加速しがちな呼吸を抑えるために口元を押さえ、都は鼻血をタラーリ出して。 そーーーーっと襖を開けてみれば、こちらに背を向け、布団の上に座り込んだ水無月の姿が。 電気の消された室内、手元だけが明るい、携帯を見ているようだ。 音量は絞られているが、妙に甲高い声が微かに聞こえてくる。 微妙に震えている後ろ姿を視界に捉えた高校生三人は限界を迎えた。 パッシィィィィィン!! 「ッ……!!??」 背後で唐突に勢いよく襖が開かれて驚愕している水無月目掛けて押入れから飛び出した、エロトリオ。 「んなッ、おっお前等っ!?」 「先生、えろ過ぎます……!」 「なんのエロ動画見てんの!?」 「せ……っせんせ……ッ」 驚きの余り強張る水無月に一斉に集って、その手に握られていた携帯を覗き込んでみれば。 <わんわん!> もっふもふのまっしろワンコがオッサン飼い主と微笑ましげに戯れていた。 「お前等、人の部屋に勝手に忍び込むなんてコソ泥みてぇだな」 脳天ゲンコツを食らって正座させられた三人は神妙な面持ちで水無月先生を見上げる。 「やりすぎました、すみません」 「ごめんにゃなさい」 「……ごめんなさい……です」 こいつら反省しているようだ。 反省しているようだが。 「……お前等、なんで勃起してんだ」 「それは……あんな先生を見たら……不可抗力です」 「シコッてるセンセがえろくって」 「一回たりともシコッてねぇよ」 「知らなかった……せんせ……あんな趣味あるって」 「紛らわしい言い方すんな、都、それから鼻血拭け」 明るくした和室にて浴衣……ではなく、いつも通りTシャツに上下ジャージの水無月は苦々しげにため息をつく。 「ったく、仕方ねぇな、ここでヌいてっていいぞ」 どう見ても収まりがつかないレベルだ、しかし大部屋だと集中できないだろうし、共通トイレでさせては余所様に迷惑がかかる。 ここで処理させるのがベストだと踏んだ水無月、やれやれと逞しく張った肩を竦め、三人を残して廊下に出ようとしたら。 ぎゅううううううっ 「おわッ!?」 「嬉しいです、先生」 「お言葉に甘えて、俺、いっぱいヌいちゃうね」 「……せんせ……うれしい」 自分より背の低い三人から同時に抱きつかれて、ビクともしないものの、ぶわぁぁぁっと紅潮した水無月。 ……またこのパターンかよ、クソ。 ……生徒の勘違いを許容してやる俺ぁ、ほんっとう、心広ぇ教師だわ。

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