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俺達はそんな君にひとめぼれした/非凡上級生二人×平凡下級生
間の悪いことに田中太一 は図書室の片隅で校内一有名なカップルがキスしているところにばったり遭遇してしまった。
「す……っすすすすみません!!」
適当に手にしていた本をばさりと床に落として太一は回れ右をし、図書委員の友達と一緒に帰ろうとやってきていたはずがカウンターをダッシュで通過し、気難しい司書に「こら!」と注意されながらも図書室を慌ただしく後にした。
翌日、教室にて。
「あー、いた、みっけ」
校内一有名な上級生カップルがやってきてクラスメートがどよめく中、太一は、眼球が飛び出そうなくらい他の誰よりも目を見開かせた……。
「田中クン、甘いの好き? チョコマフィンあげよっか?」
三Cクラス在籍、眼鏡男子の京乃 は大人びたダークブラウンに染めたサラサラ髪を木漏れ日に艶めかせ、隣に座る太一に話しかける。
「塩唐揚げ、食べるか」
三Dクラス在籍、ちょっと目つきの据わった九月 はやたら長い指で肉片を摘まみ、隣に座る太一に差し出す。
一Dクラス在籍、どこからどう見ても平凡男子の太一は裏庭のベンチ上、二人の間で縮こまる。
昨日、勝手にキスを目撃しやがって、あの後輩、みたいな感じでちょっとからかいにきたんだろうな……。
しかしそれからというもの太一の学校生活に京乃と九月はやたら割り込んでくるようになった。
「田中クン、かわいいよね」
トイレからの帰り、階段を駆け足で下りてくる京乃と鉢合わせ、掲示板の前で仕方なく足を止めていたら。
同じフロアに着地するなり京乃は太一にちゅっとキスをした。
「あ、やっぱりかわいい」
呆気にとられるのと同時に赤面した太一に京乃はふふっと笑いかける。
「京乃が?」
その日の昼休み、美化委員会の会議で京乃がいないとき、太一はキスされたことを何となく九月に裏庭で打ち明けた。
本人は軽いノリなのかもしれないが、付き合っている九月からああいう真似はやめてもらうよう言ってほしいと、それとなく頼んでみた。
「俺と京乃は付き合ってない」
確かに図書室で二人のキスを目撃していた太一は「は?」と思い、隣に座る九月へ反射的に目をやる。
九月の顔はやたら至近距離にあった。
「俺とあいつは趣味が合うだけ」
好きになる相手もかぶるくらい。
そう言って九月も太一にキスをした。
は? なにそれ? からかってるんですよね?
どっこにでもいそうな平凡な下級生捕まえて、ちゅーして、面白いですか?
きっと暇潰しのゲーム感覚なんですよね。
振り回される身にもなってくださいよ、二人とも。
「最近、二人のこと考えると睡眠不足で……ひっく……どうしようって妙に不安になって……」
放課後、誰もいない教室で太一は二人に本音を告げた。
告げている最中、何故か涙が出て、鼻水も出て、変な声も出た。
「暇潰しとかゲームとか、そんなこと、一度も思ったことないよ?」
「最初、お前を見たとき」
「顔真っ赤にしてすぐ逃げちゃったけど、ずっと目に焼きついて」
「泣かせるつもりなんてなかった、悪い」
「ごめんね?」
まるで「僕達、私達、卒業します」という締め括りに行き着きそうな二人交互の告白に太一はこれまでにおいて一番の赤面に至った。
上級生二人はそんな下級生に告げた。
「不安なんてなくなるくらい」
「身をもって教えてやるから」
俺達のこの気持ち。
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