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カオスといっしょ/美形エイリアン×おひとよし男子/受溺愛攻

「この世界は菜々樹に相応しくない」 痛みで頭がぼんやりしていた菜々樹(ななき)は霞む目で彼を見つめた。 あれ……? カオ君が……いっぱいいる? 十七歳の菜々樹はコンビニで働いて安アパートで一人暮らしをしていた。 同じ孤児院の出で、定職につかずにフラフラしている友達に金をせびられると、理由も聞かずに財布に入っていたお札をすぐに渡して、自分は小銭で何とかしのいで。 喧嘩をしている酔っ払い同士がいたら慌てて仲裁に入って、殴られて。 泣いている子供がいたら心配して駆け寄り、やってきた母親にこのご時世よろしく不審者扱いされて。 いわゆるお人よし。 そんな菜々樹の唯一の趣味は図書館で絵本を読むことだった。 「菜々樹」 菜々樹は図書館で禍御守と出会った。 長身で黒っぽいスーツを着て、しっとり黒髪、綺麗な双眸、仄かに色づく唇。 初対面であるのに何故か禍御守は菜々樹のことを知っていた。 両手いっぱいに抱えていた難しそうな分厚い本をその場にどさりどさり落とし、周囲の非難に我関せず、菜々樹のそばへ足早に歩み寄るとまじまじと顔を覗き込んできた。 「えっと、どなたですか?」 「禍御守」 「かお……す?」 「禍御守と仲よくしてほしいです。菜々樹」 お人よしで他人を疑うことを知らない菜々樹は快く彼を受け入れた。 それから間もなくして。 またお金をせびりに菜々樹のアパートへやってきた昔の友達。 給料日前で小銭しか手持ちがないと伝えれば、菜々樹とは面識のない連れと共に四畳半の部屋を引っ掻き回し、金銭的なものがまるでないと知ると。 隅っこに座っていた菜々樹を蹴った。 役に立てなくてごめん、そう謝る菜々樹を蹴って殴って、そこへ、禍御守が現れた。 「この世界は菜々樹に相応しくない」 友達とその連れを一瞬にして黙らせて、それだけでは怒りがおさまらず無に帰そうとした禍御守をかろうじて止めた気絶寸前の菜々樹に、彼はそう囁いて。 菜々樹を地球から母星へ拉致した。 禍御守はエイリアンだった。 そこはまるで大好きな絵本の世界。 深く青い森に澄んだ湖、澄んだ空、瑞々しい空気。 「わぁ」 虹色の蝶達が群れを成して遥か上空へ舞い上がるのを菜々樹は夢中で見送る。 そんな菜々樹の横顔に夢中になる禍御守。 「すごくきれいだね、カオ君」 「菜々樹の方がきれいです」 またこれだ。 女の子にもてそうなカオ君は言い慣れてるのかもしれないけど、おれは聞き慣れてないから恥ずかしい。 だけどカオ君ってエイリアンだったんだ。 人間離れした不思議な雰囲気だなって思ってたけど、まさかエイリアンだったなんて。 カオ君の母星に連れてこられるなんてなぁ。 「おれはいつ地球に戻れるの?」 「菜々樹はもう地球に戻らないです。禍御守とこの<ジェーン>暮らします。ずっと」 「コンビニのシフトが入ってるから戻らないと」 「菜々樹は戻らないです」 禍御守はちょこっと強引なところがある。 森の案内を切り上げると手を引いて、終の住処となる城へ、そう、正しく城へ菜々樹を連れて帰った。 「一目見て菜々樹の美しさの虜。なりました」 「う、うつくしさ?」 「菜々樹は禍御守と暮らします。ずっと」 「それはもう聞いたから、ねぇカオ君、戻らないと」 「戻らないです」 おれを戻さないようにしているのは、あれかな、おれが殴られたり蹴られたりしたから……。 「そういえば傷が」 「<ジェーン>が癒しました」 「え?」 「<ジェーン>菜々樹を受け入れました。禍御守と同じ。菜々樹を愛しました」 「……。傷を治してくれてありがとう、ジェーンさん」 あ。 「カオ君って兄弟とかいる?」 「……。どして」 「あのとき……おれを助けてくれたとき、はっきり見えなかったんだけど、カオ君がいっぱいいたような気がして」 「……。いないです」 そっか。 気のせいだったのかな。

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