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ウチの双子が俺溺愛で困る-4

三十一歳でとび職に勤める巽己は仕事を終えると真っ直ぐマイホームことオンボロアパートの一室に帰宅する。 「おかえり、巽己くん!」 「巽己さん、おかえりなさい」 肉体労働に疲れ果てた巽己を出迎えるのは、ボロアパートの一室にとんと似つかわしくない、美麗なるイケメン二人。 二人の顔はそっくりだ。 それもそのはず、だって二人は一卵性双生児。 その双子と全く似ていない、どちらかと言えばやさぐれた風な強面の巽己。 それもそのはず、だって、彼と双子は赤の他人。 それでも一人と二人は仲良く一緒に暮らしている。 少々、良過ぎるくらいに。 高校三年生の双子は同じコンビニでバイトをしていた。 シフトをずらしてもらい、一人がバイトの日はもう一人が家事をするという決まりだった。 「巽己さん、おかえりなさい」 その日は一朗がバイトに出、一弥が家にいる日だった。 制服にエプロンをつけて夕食の支度をしていた彼に「おう、ただいま」と声をかけ、巽己は入念に手洗いやうがいを済ませる。 「あっ」 不意に聞こえた小さな声。 キッチン前に立つ一弥の手元をひょいと覗き込んでみると、どうやら包丁で指を切ってしまったらしい、白い指先に一箇所血が滲んでいた。 「焦ってやる必要ねぇぞ、ゆっくりすりゃあいい」 「巽己さんに……すぐご飯、食べさせてあげたくて」 新妻のような台詞を零して一弥はぽっと頬を赤らめる。 巽己は肩を竦め、無造作にその手首をとると。 ぱくんと口に含んで血を舐めた。 巽己が双子と共に暮らすようになったのは八年前からだ。 小学生だった二人はその頃から対照的な性格で、一朗がよく生傷をこさえるのに対し、一弥は毎日優等生然としていて、掠り傷一つつくることもなかった。 そんな一弥が自分のために一刻も早く食事を作ろうと焦って小さな傷を負ったのが、何だか、意外なギャップで微笑ましくて。 巽己は何の思惑もなしに彼の指を口にしたのだが。 「後でちゃんと消毒して絆創膏はっとけよ……って、おい、一弥?」 クラスメートどころか女教師さえも虜にするクールビューティーな一弥、そんな彼が、決して学校では見せない表情を浮かべていた。 まるで恋する乙女のような、マンガであったならば色とりどりのお花が背景に咲き誇っていそうな。 「ど、どうした?」 「巽己さん……今の、反則ですよ?」 百七十センチの巽己を百八十二センチの一弥は易々とその腕の中に抱き寄せた。 引き締まった体でありながら柔らかな尻をぺたぺた触りながら、ちゅっと、我知らずエロスイッチを押してしまった巽己にキスをする。 微かに自分の血の味が残る巽己の口内を舌尖でくちゅくちゅと引っ掻き回す。 「む……んんぅ!」 いきなり盛り始めた一弥に身を捩じらせながらも慌てて点けっぱなしのコンロの火を止めたのは年の功といったところか。 まな板を奥に寄せてシンクに座らされた巽己、足の間に割って入ってきた一弥に仕方なく応えてやる。 一弥は益々喜んで巽己の唇を一心に温めた……。

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