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眠れる森の美男子と二人の魔法使い-4
「シャルトリュスの夢は僕に優しかった」
ペルシアはシャルトリュスに横から抱き着くと触り心地のいいローブに頬擦りした。
「お父様よりも、お母様よりも、召使いよりも、誰よりも一番優しかった。起きていたときよりも眠っているときの方が楽しかった」
「ペルシア、君が眠りについてから半世紀のときが過ぎました。君のご両親はもう」
「うん。もうどこにもいない。夢の中であなたから聞いた。起きていたときから、もう、いないようなものだったから。ちっとも悲しくない」
あなたがそばにいてくれたら、それだけで、いい。
「ぼくの恋人になってくれてありがとう、シャルトリュス」
華奢なペルシアに堂々と甘えられて、そんなことを言われて、シャルトリュスは徐々にたじろぎ始めた。
「君は眠りながら私に恋をしたんですか? でも、それだけで真の恋人とは……相思相愛の仲における口づけでなければ目覚めには」
「コイツに惚れたのか、シャル」
「え!? ラグドル君、君、いきなり何てことを言い出すんですか!?」
「今アンタが言っただろう。相思相愛じゃなければ駄目だと」
「そ、そんなまさか、こんな地味おじいさんの私がペルシアに恋なんて、烏滸がましいにも程が、棺桶寸前、亡者一歩手前の私が彼に恋なんて」
赤くなった顔を両手で覆い隠して嘆くシャルトリュスにペルシアは笑いかけた。
「かわいい、シャルトリュス」
さらに頬をまっかっかにしたシャルトリュス。
磨きのかかった仏頂面と化したラグドル。
まるで道化のようだと自分を嘲笑い、夢の中で結ばれた二人に太刀打ちできるはずもない、こんな世界なんざ「破滅の力」でとっとと終わってしまえ、そんな自暴自棄の念に駆られ、居た堪れずにその場を後にしようとしたラグドルであったが。
「んっ!?」
シャルトリュスの驚きの声に反射的に忠犬よろしく振り返れば。
愛しの師匠は下から頭を抱き寄せられてペルシアに熱烈なキスをされていた。
ついついカッとなった。
仰天していたシャルトリュスを懐に引き寄せて、ほぼ半世紀分年上であるにもかかわらずペルシアを突き飛ばすという、何とも年上らしからぬ真似に至った。
「突拍子もないことをシャルにするな、心臓発作を起こすかもしれないだろ」
突き飛ばされてよろめいたペルシアは痛がるでも怖がるでもなく、ラグドルを完全無視、耳まで赤くなっているシャルトリュスに正面からしがみついた。
「ごめんね、そんなにびっくりした?」
口元を片手で押さえたシャルトリュスはうんうん頷いた。
「はぁ、あの、いきなり舌を突っ込まれたのでどうしようかと」
「シャル、アンタ一体どういう夢をコイツに見せていたんだ、まるで飢えた獣じゃないか、アンタの唇に浅ましくがっついて、十六歳の少年からケダモノにでも退化したんじゃないのか」
「が、がっつかれたわけじゃあ……ただ舌が……」
数百歳のくせして色事にてんで疎い魔法使い。
「ねぇ、シャルトリュス、僕に教えて? あなたのぬくもりを」
「ハグすればいいんですか?」
「ううん。ちゃんとなかまで教えて」
「おい、なに抜かしてる、調子に乗るな、それ以上シャルに触るんじゃない」
「私のなか? それはちょっと痛そうですね、五臓六腑を曝すのは、さすがに」
「あなたと交わりたい」
ラグドルとペルシアの狭間でシャルトリュスはピシッと固まった。
「まままま、まじわ、り」
「うん」
「そそ、それは、こんな貧相な私ではちょっと、あ、そうです、肉付きのいいラグドル君の方がまだうってつけかと」
「ふざけるな、シャル」
「あなたがいい、あなたじゃなきゃだめ」
「え、えーと、それならばせめて女の人に姿を変えましょうかね」
「やだ。ありのままのあなたがいい」
「おい、シャル、本気でこいつの言いなりになるつもりか、なんでそこまでする必要がある」
動揺しっぱなし、どこからどう見てもてんぱっていたはずのシャルトリュスは後ろから自分を支えるラグドルを不意に真摯な眼差しで顧みた。
「だって、私、この子に半永久の眠り魔法をかけたんですよ?」
半世紀の自由を奪った代わりになんでもしてあげたいと思うのは当然でしょう?
「……お優しいシャル、さすが言うことが違う……」
その優しさは諸刃の剣だな、先生。
ペルシアを守って俺の心臓を刺し貫く。
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