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眠れる森の美男子と二人の魔法使い-3

「わああああ」 「狼狽えるな、シャル、また眠り魔法を使えばいい」 「ええっと、なんでしたっけ、呪文ド忘れしちゃいました、どうしよう」 「こうなったら奴の息の根を止めるしかないな」 「ラグドル君、待って、待ってください」 さすがに予想外の展開に慌てふためくシャルトリュスと命を奪い取る気満々なラグドル。 そんな二人をベッドから眺めるペルシア。 白っぽい寝間着姿の彼は上半身を起こし、プラチナブロンドをサラリと靡かせ、オッドアイなる双眸を緩やかに瞬きさせた。 「あなたの夢を見ていたんだ」 向かい合って押し問答していたシャルトリュスとラグドルはまた二人揃ってベッドへ視線を転じた。 「シャルトリュス。あなたがくれた夢はしあわせいっぱいだったよ?」 ペルシアは笑った。 聞いた者を夢心地にさせる玲瓏たる声音。 少年というより少女じみた華奢な肢体。 この世のものならざる麗しオーラが半端ない。 「ペルシア」 永い眠りについていた蕾が色鮮やかに花開いたような微笑みにシャルトリュスは目を輝かせた。 よろしくない師匠のリアクションにラグドルは顔を曇らせる。 「シャル、呪文を思い出したのなら早いとこかけちまえ」 「ラグドル君、私、素晴らしいアイディアを思いつきました」 「嫌な予感がするから聞きたくない」 「ペルシアが十七になるまで残り一年です」 その間に彼 奴(はめつのちから)を浄化させましょう。 「あのな、シャル、浄化させる具体的な方法を今ここで教えてくれないか」 「え? 何て言いました?」 「自分に都合の悪いところだけ聞こえないフリをするな」 「策を練るのは苦手なので君に任せます」 舞い上がり気味なシャルトリュスは渋い表情をしているラグドルの革手袋に包まれた両手をぎゅっと握った。 「第一弟子である君と私で力を合わせればきっと叶うはず、破滅へのカウントダウンを二人で止めましょう、ラグドル君!」 ラグドルは……赤面した。 片恋をこじらせる余り、数多の女性を虜にしながらも独り身を貫く男は容易に(ほだ)されて危うく同意しそうになった。 「シャルトリュス」 かけがえのない片恋相手に不意に絡みついた自分以外の両腕。 「僕のことひとりぼっちにしないで」 半世紀の寝床となっていたベッドを出、久方振りの自由を得たペルシアがシャルトリュスに背後から抱き着いていた。 深紅と深黒のオッドアイによる底抜けに冷えた眼差しをラグドルへ放ちながら。 「……」 明らかな敵意を突きつけられてラグドルは琥珀に煌めく右目を険しげに細める。 「さっき、シャルトリュスに置き去りにされる夢を見たんだ。とっても怖かった」 「私が君を置き去りに?」 「このひとがシャルトリュスを連れていく夢」 不躾に指差されてさらに険しくなっていく琥珀の眼。 「ラグドル君、そんなに睨まないであげてください、ペルシアが怯えてしまいます」 ラグドルはぐっと詰まった、シャルトリュスにイイコイイコされているペルシアが憎たらしくてならなかった、イライラして地団駄を踏みたくなった。 そもそもどうして目覚めたんだ、コイツは。 真の恋人からのキスが起爆スイッチになるんじゃなかったのか。 まさか、先生は、本気でコイツのことを。

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