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続・トモ活しちゃう?-2
樫井は自宅へ帰る前に凌空のリクエストを一つだけ叶えてやった。
「ツリーでっか! かわいい! きれい! キラキラしてる! 風冷た!」
人の行き来が絶えない駅前広場。
ツリーの前ではしゃぐ凌空とは対照的に無言無表情でいるシニカル樫井、やはりイベントにはとことん無関心らしい。
「樫井は写真部なのに、こーいうの撮りたいって思わんの?」
「全く思わない」
「うう……。じゃあ何撮るの? 風景? 人? 動物?」
ショート丈のダッフルコート、チェック柄のマフラーをぐるぐる巻きにしていた凌空は隣に立つ無愛想男子に尋ねた。
ダウンジャケットを羽織った彼は答えず。
シカトされても落ち込んだりせず、凌空はシャープな横顔をチラ見した。
(樫井は私服だといつも以上にオトナっぽくなる)
俺は高校生代表みたいな感じだけど、樫井は大学生みたい、ス●バとかも一人で余裕そう、苦いコーヒーだってがんがん飲めそう。
(俺なんか牛乳いっぱい入れないとコーヒー飲めない)
巨大ツリーに夢中になっていたはずが、いつの間にか隣のクラスメートのことだけを見つめていた凌空。
「え」
だから、不意にこちらを見たかと思えば、頭を屈めて耳元に顔を寄せてきた樫井にどきっとした。
「ハメ撮り」
エッチなワードを囁かれた際には律儀に心臓をビクリと反応させた。
「ママ活相手の人妻とベッドで絶頂記念撮影」
けしからん囁きを鼓膜にダイレクトに注ぎ込まれて、凌空は……その場で腰を抜かしてしまった。
「……」
「わぅぅ……樫井のすけべぇ……えろえろインスタグラマー……」
「嘘に決まってるだろ」
「ウソでもスケべが過ぎる……ッ」
「早く立て、恥ずかしい」
「えろえろ樫井、えろえろ無愛想……」
(樫井って一体どんな修行して、こッ……んなエロスキル手に入れたんだぁ)
「ふぁ……樫井ぃ……」
自宅マンションへ帰るなり、樫井のエロスキルは炸裂した。
父子家庭である樫井家、父親は休日出勤、姉はすでに実家を出ていて無人ではあるものの、帰宅早々ぶちゅぶちゅされるのは恥ずかしい……。
「も……もっと……」
樫井にめろめろめろめろにされている凌空はエロスキルの前にあっさり平伏した。
遮光カーテンに閉ざされて薄明るい昼下がりの部屋。
アウターを着たままの二人は上下にぴったり折り重なっていた。
暖房を点けたばかりで冷たい部屋に頻りに鳴らされる水音と衣擦れの音。
互いの唇の狭間に時折覗く、絡み合う舌。
沈殿する冷気に熱もつ吐息が行き交う。
「んっ」
舌の先っちょを甘噛みされて凌空は喉を引き攣らせた。
まだマフラーも巻いたままのクラスメートを間近に見下ろし、樫井は声もなく笑う。
「樫井、もっと……」
凌空が素直にほしがれば。
樫井は斜めに顔を傾けて深々と唇を塞ぎ、尖らせた舌先で口内をねっとり掻き回し、よりクチュクチュと音を立てた。
「んん、ん……っ」
(樫井のキス、きもちいい)
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