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ベータな生徒はアルファの先生に選ばれたい!/無愛想先生×わんこ生徒
「先生のことが好きです」
「……」
「入学したときから、ずっと」
「……」
「バレンタインデーの今日、告白しようって、決めてました」
バレンタインデーにて一世一代の告白。
高校二年生男子の幸村凌空(ゆきむらりく)は今にも胸が張り裂けそうだった。
(それ全部俺の台詞!!!!!)
そう。
一世一代の告白は凌空によるものではない。
同じ学校に通う女子生徒のものだった。
「きっと先生はオメガの私にとって運命のアルファです」
ベータ性の凌空はぎゅっと唇を噛んだ。
そこは凌空が通う高校から程近いエリアの一角だった。
立ち並ぶマンションの間にドラッグストアやコンビニなどが点在する、人の行き来が絶えない路線沿い。
すっかり日は落ちて街灯が家路を急ぐ人々を照らす中、凌空は路地裏の入り口に建つ電柱に怪しげに抱き着いていた。
「好きです、樫井先生」
薄暗い路地裏でオメガ性の少女に告白されているのは、凌空が通う高校の数学教師・樫井(かしい)だった。
見た目からして「優しい先生」っぽくない。
身長182センチで手つかずの黒髪、職員室でも教室でも常に乾いた眼差し、写真部顧問、ちなみに八重歯。
寒い季節だといつも襟シャツに無地のセーター、スラックスという格好で冬コーデを楽しんでいる気配はゼロ。
どちらかと言えば「怖い先生」の部類に入る不愛想な樫井はアルファ性だった。
(俺だって先生に言いたかった、好きだって)
身長175センチでちょっと短め茶髪、人懐っこい性格でワンコ属性の凌空はそんな樫井先生に本日告白する気満々だった。
把握済みである樫井の自宅マンション付近で待ち構えていたところ、いざ彼が姿を現したかと思えばコンビニから飛び出してきた同校の女子生徒に呆気なく先を越されてしまったのだ。
「……」
小動物を彷彿とさせる小柄で可愛らしい女子生徒を前に樫井が口を開きかけた、その瞬間。
凌空はその場から駆け出した。
一時間近くウロウロしていた樫井の自宅マンション付近から全速力で離れた。
(ずるい)
俺だって告白したかった。
でも、もう、なんか……もういーや。
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