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スパイシースウィートホーム/美形パパ×平凡息子

こぢんまりしたイタリアンカフェレストラン。 女性同士のグループやカップルなどの客がいる店内は瀟洒なシャンデリア、点在する間接照明に仄明るく照らされている。 「誕生日おめでとう、一楓」 今日、一楓(いつか)は十六歳になった。 好きなものばかりが揃うコース料理にチョコレートのきいたカフェモカ、平日夜の窓際角の予約席にて父親の奏之(かなゆき)にお祝いされていた。 「この店に来るのは久しぶりだね、一楓の夏休み以来かな」 木造テーブルに両頬杖を突いてにこやかに語りかけてくる父。 香料が控え目なヘアスタイリング剤を馴染ませて自然に撫でつけた髪。 スキンケアなんて気にもかけていない、にも関わらず冴え冴えと整った肌。 「ワイン、頼もうかな。スパークリングか赤か白か、色々あって迷っちゃうな」 長めの睫毛の影を吸い込む甘やかな目許の双眸。 色味が強めの薄い唇。 スーツは脱いでストライプ柄のシャツにネクタイ、フォーマルベスト、ブランド物でもないシンプルな腕時計は今は亡き妻がかつてプレゼントしたもので。 「一楓も一口飲んでみる?」 「弁護士が未成年にお酒勧めていーの」 注文してすぐに運ばれてきたグラスワインを差し出してきた奏之に一楓がそう言えば、ずっと浮かれている父親は、わざとらしいくらい目を見張らせた。 「さすが十六歳になっただけあるね。一楓、僕よりしっかりしてる」 オーバーな台詞に肩を竦めた一楓が俯きがちにカフェモカを飲もうとすれば。 「熱いから火傷しないようにね」 さらに俯いた一楓の頬がほんのり赤くなっていく。 お父さんって、ほんとう意味がわからない。 こんな風にこども扱いして、自分は夜遅く帰るくせに門限は八時、誰もいないウチに閉じ込めたがって。 そして。 『いい子だね、一楓……?』 あんなこと、何回もしてくる。 五年前にお母さんが事故で死んで、それから始まって、ずっと。 「牛テールの煮込み、もう食べた? すごく美味しいよ。こっちのジェノベーゼのパスタも蒸し鶏が入ってて美味しいよ」 今日で十六歳になった。 もう免許だってとれる……原付だけど。 それに結婚だって……女子の場合だけど。 あんなこと、おれ、もう嫌だ。 絶対にいけないことだし、誰かに知られたら、うん、生きていけない。 今日からもうさせない。 お父さんにガツンと言わなきゃ、これ以上あんなこと続けないよう、ビシッと言わなきゃ。 おれはもうこどもじゃないっっ。

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