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イケナイ情事で愛されて/元彼×現役主夫
まさかあの人と再会する日が来るなんて。
「お前、匡季か……?」
お願いだからその声で呼ばないで。
安らかで静かな日々が音を立てて崩れていく……。
二年前、神原匡季 は現在の妻と結婚した際に仕事を辞めて専業主夫となった。
一回り近く年上の妻はネイルサロン、エステ、オーガニックレストランなどを経営する女性起業家であり、本業はもちろんのこと講演のため地方出張に出かけたりと多忙極まりない身、家で丸一日のんびり過ごす休日は月に一度あればいい方だった。
不慮の事故で父親が他界し、保険事務所に勤めていた母親のため匡季は小学生の頃から家事をこなしていた。
元から手先が器用な彼は文句不満一つ言わず、高級住宅街の新築マイホームで毎日を慎ましく穏やかに暮ごしている。
月のお小遣いは特に買いたいものもないので自分名義の口座に貯金しており、なかなかの額になっていた。
「鮎奈さんのために何かプレゼントしようかな……」
でも、それなら、短期でいいから仕事をして俺自身で稼いだお金で送りたいんだけれど。
『貴方はこれまで通り<家>という職場で私のためだけに働いてくれればいいの』
彼女はその一点張りで一日限定のバイトすら許してくれない。
高校を卒業し、花屋に勤め、届け先のサロンで妻と出会った、現在二十四歳の匡季。
彼はまるで綺麗に設えられた安息の鳥かごでそっと羽を休める鳥のようだった。
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