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異世界わん!!-5
どーいうことだよ、これ。
「うおおッ燎一郎!!」
「お前っ……いつの間に戻って来たんだよ!?」
「その首輪おしゃれか!!」
なんで俺ここにいるんだよ。
いつの間に元の世界に戻ってんだよ?
『それは婚約の誓いを意味するものだ』
ここにカミュはいねぇのに。
獣人だらけの異世界にトリップしていたはずが元の世界にいつの間にやら帰還していた燎一郎。
我に返ればトラックに轢かれかけていた仔猫を助けた横断歩道脇に突っ立っていた。
下校途中だった友達に発見されて、次から次に抱きしめられ、元の居場所へ戻ってきたんだと気づかされた。
どうして戻ってくることができたのか。
向こう側のグロウル国で何があったのか。
「思い出せねぇ」
カミュに壊されるまでスマホで連絡をとっていた友達や家族は感動の再会として燎一郎を涙ながらに出迎えた、もちろん燎一郎だって嬉しかった。
だけど。
そう、この世界にカミュはいない。
『一目見て私の伴侶にしたいと思ったからだ』
夜、久し振りに横になった自分のベッドで燎一郎はソレをぎゅっと握り締めた。
出会ったその日にカミュに捧げられた誓いの首輪だった。
そう。グロウル国も、先祖代々国家に仕えてきた隻眼のカミュ・V・ファングも、ここではない違う世界に確かに存在しているのだ。
「もう戻れねぇのかな」
いや、その言い方はおかしいだろ、俺は元々この世界の住人なんだから。
俺がいるべき場所はここだろ?
ここで生まれて育った、家族も友達もいる、今までの俺の歴史がぎゅうぎゅう詰まってんだろ?
何とも複雑な感情に胸を押し潰されて寝つきが悪かった燎一郎だが夜更け頃に眠りにつくことができた。
夢を見た。
夢というより、それは、記憶の断片。
『危ないぞ、燎一郎』
『ガキ扱いすんじゃねぇ』
『木登りにそれほどまでに興味があるのか』
『何気に木登りとか初めてなんだよ、へぇ~、俺ってソコに倒れてたのか、覚えてねぇ』
『高すぎる、もう降りてこい、燎一郎』
『だからガキ扱いすんな、って……あ』
『!!』
「……マジかよ」
カーテンの隙間から滲む朝陽を横顔に浴びた燎一郎は目覚めるなり掠れた声で呟いた。
俺、木から落っこちてコッチに戻ってきたのかよ。
だっせぇ。
つぅことは下にいたカミュの見てる前でアッチから消えたってことか?
ビックリしただろうな、アイツ。
ザマミロ。
失神してた俺に勝手に首輪つけやがった自己中ヤロー、俺様で、プライド高ぇし、俺のスマホ真っ二つに折りやがった短気ヤローだし、アレのときは……すンげぇ強引だし……。
『お前がいれば私は淋しくない』
なかなかベッドから出ようとしない燎一郎は寝ている間ずっと抱きしめていた首輪を見つめた。
今頃淋しがってんのかな、カミュの奴。
案外、普通に生活してんじゃねぇの?
俺のこと放置して軍の任務だとかで外に出っ放しのときもあったし。
「おはよー、燎一郎!」
「お前、三ヶ月も休んだから留年決定じゃね?」
どこかスッキリしない心境で学校に登校して友達及びクラスメートに声をかけられても上の空で返事をして隅っこの席に着く。
三ヶ月もアッチにいたんだな。
短かったような長かったような。
「八代、これからは生活態度改めないとなぁ、不真面目でいるとまた罰として神隠しにあうかもだぞ?」
朝のホームルームを始める前、わざわざ隅っこの席までやってきた担任に肩を叩かれてヤンキー男子は珍しく力なく頷いた。
普段の燎一郎なら「うっせぇ」「バカにすんじゃねぇ」と即座に言い返していただろう。
胸のモヤモヤ感に意識を引っ張られて反抗心も今は削がれているらしい。
「なぁなぁ、あの話ぜんぶホントなの? 犬の頭した奴等ばっかの世界にいたって」
「ウソじゃねぇよ」
「コラ、また神隠しにあいたいのか、八代、ホームルーム中は私語を慎め」
話しかけてきた友達が担任にぎゃーすか言い返すのを燎一郎はどこか白けた眼差しで眺め、頬杖を突き、窓の外をぼんやり眺めた。
なぁ、カミュ。
ずっとお前のことばっか考えてる。
昨日から変なんだよな。
生まれてからずっといたこの居場所が、居場所じゃないような、どっかウソくさい感じがするっつぅか。
オヤジもかーちゃんも、ねーちゃんも弟も、友達も、再会できてすげぇ嬉しかったんだけど、さ。
「……会いてぇ……」
会いたい、会いたい、カミュ。
戻りたい。
ココより、お前のそばがいい、俺…………。
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