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第71話《未来へ…》

――翌朝。 満は庭で横たわっている所を健次たちに発見される。 満は意識を失くしたまま、昏睡していたが……。 一日経って目を覚ます。 その満は、今までとは別人のように変わっていた。 自ら食事を摂りはじめ、体調を崩している事が信じられない様子にまで活力を取り戻す。 あの鬱状態は嘘のように――。 日種久弥のことは、満は口にしない。一言も……。 あれだけ苦しんでいたのに……。 その日以来、楠木家では『日種久弥』の名前は禁句となった。 生き返った満だったが、もうひとつ大きく変わってしまったことがあった。 満から、心を失くした人形のように表情が消え、健次が話し掛けても返事をしてくれない。 久弥に出会う前の無感動な満に戻ってしまった。 再び笑顔を失くしてしまった満。 健次は、満と気軽に話が出来なくなり、とても悲しく思うけれど…… 辛い事を思い出させ、再び満を地獄の苦しみに引き戻すことは、とてもできない事だから。 そのことには、触れられなかった。 そして、月日は流れ… 満は外科医なった。 それでも人を愛したこと、何も思い出さない満だけれど、完全に忘れ去っている訳ではないことを健次は知っていた。 あの事件以来……。 満は、血が、鮮血が苦手になっていること。 外科医にとって、それは致命的弱点。 けれど、満は凄い集中力を見せ、手術を成功させる。 しかし、手術後、集中力が途切れた時。 ひそかに吐き気と戦っている満を知っているから。 今でも……。 だから、僕は忘れない、兄は…本気で一人のヒトを愛したことのある、優しい人だという事……。 辛い結末に終わってしまったけれど、人の為に泣ける人だったという事。 決して忘れない――。 《永遠の誓い》完結。

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