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除夜の鐘を聞きながら
お題「カウントダウンエロ」
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大晦日恒例の歌合戦が終わってしまったが、紫苑はまだ帰ってこない。
モデルという不規則極まりない職業に就く恋人、というよりもはや夫と言っていい。高校時代から交際を始め、同じ大学へ進学、卒業してからは一緒に暮らし始め…何年経ったんだろう。
よくよく考えなければ思い出せないほどの年数を、共に重ねてきた。
忘年会と言っていたから、きっとオールになるんだろうな。
静流は小さくため息をついて、年越しそばの準備でも始めようとソファから腰を上げた。
鍋に湯を沸かしていると、玄関のドアが開く音。
「紫苑?」
廊下を覗くやいなや捉われ、強い力で押される。後ずさりしながら部屋へと押し戻され、ソファに押し倒された。
「あの、おかえり…?」
戸惑いながら見上げる静流に、紫苑は何も言わず唇にかぶりついた。角度を変えて何度も何度も喰らい尽くすように唇を食み、咥内を侵す。
「どうした、のっ、っは」
角度を変える合間に息苦しそうに静流が問うが、依然返事は返って来ず。
荒々しく衣服を毟り取られ、いきなり外気にさらされた肌が粟立つ。さっきまで外にいた紫苑の冷たい手が、その粟立った白い肌の上を無遠慮に滑りまわる。
静流は紫苑に対して怯えにも似た感情を抱き、いつものように彼に身を委ねることができずにいる。せめて、何か言ってーー
「紫苑、ねえ紫苑ったら」
そんな声も無視され、手順だけはいつも通り淡々と進んで行く。部屋着のスウェットパンツに手を入れられて、下着ごと引き下ろされた。
お酒の匂いはしないから、酔っているわけでもなさそうだ。ならどうしてこんな抱き方をするのか。何かあったんだろうか、もしかして何か怒らせてしまっただろうか?
慣れた手つきで後ろを解され、気持ちは困惑していても体はすっかりいつも通りの反応を始めてしまう。だけど、こんな気持ちで抱かれたって、虚しい。そうは思っていても、先端がぴたりと当てがわれると、それだけで静流の腰は反ってしまうのだった。
「いやだ…紫苑」
いつもの相手と、いつもの手順で、いつもの行為。なのに、どうしてこんなに悲しいんだろう。
揺さぶられながら、頭の中はすっかり冷え切ってしまっていた。繋がった部分はいやらしい音を立ててはいるけれど、全然気持ちよくなんかないし興奮もして来ない。さっさと終われ、頭の中はそれしかなかった。
ゴーン
つけっぱなしだったテレビから除夜の鐘が聞こえてきた。鐘の音を聴きながらセックスだなんて、と静流はますます萎えた。だが紫苑は人の気も知らず余裕のない顔で腰を振り続けている。
やがて静流は終わりの予兆を感じた。中に埋め込まれたものがひときわ膨れ上がり、紫苑の速度もスピードを増す。はいはい早く解放してくださいよ、なんて思いながら揺れる視界の中天井のシミを眺めていると、テレビから新年の挨拶が飛び交い始めた。
「皆さま、新年明けましておめでとうございます!」
「たった今、新しい年がスタートいたしました!」
お祭り騒ぎのテレビをBGMにただただ揺らされていると
「っくしょー、間に合わなかった…」
紫苑が今夜帰ってきて初めて発した言葉。
「な、何が?」
「アレだよ、年明けと同時にイキたいなって、さ」
言葉が終わるか終わらないかのうちに、静流は紫苑を体の中から追い出した。
「…ばっかじゃないの?」
紫苑から背を向けて丸くなる。自分だけ裸であることが今更ながらとても恥ずかしい。
「しず、何怒ってんだよ」
「そんっなくっだらないことのために、ものも言わず必死になって腰振ってたってこと?」
「ん、ああ、やっぱり5.4.3.2.1.発射!みたいなさ、そんなんよくね?」
「バカ‼︎」
静流はゲラゲラと笑う紫苑にクッションを投げつけた。
「ぼっ、僕は、悲しくて虚しくて、サイテーの年越しだったよ…っ」
「へ…?」
「紫苑、怖かったし、なんか怒らせたかなって…」
眦が光り、抱いていた時よりもみるみる顔が紅潮していく静流。またやらかしちまった、と紫苑は気づいた。
「ごめん」
「別にカウントダウンに合わせる必要ないし!それ以前に、そんなに慌てて帰ってくるなり始めなくてもいいのに」
唇が戦慄いているのは、怒りからなのかそれとも悲しみからなのか。
「ごめんて、しず」
自分がひん剥いた衣服を、静流にかけてやり、肩を抱いて、叱られらやしないかとびくびくしながら紫苑は話した。
「でもしず、気づいてた?俺ら毎年ヤりながら年越ししてたの」
「えっ」
今度は違う意味で静流の顔が赤く染まった。
「マジだよ、一緒に暮らすようんなってからずっと。だから俺、今日も年越し前にはぜってー帰ってきて、しずと繋がって新しい年を迎えないと、って」
「そう…だったっけ」
毒気を抜かれて放心状態の静流。
「そーなんだよっ!俺は全部覚えてるからな!…今年も、よろしくな」
まだぼーっとしてる静流の額に口づけを落とした。
「こちらこそ」
今度は静流が、紫苑の唇に。
ようやく二人に笑顔が戻り、無事新しい一年が幕を開けた。
「ってことで、パーッとヤりなおすか!」
「…やっぱりバカだよね、紫苑は」
【終わり】
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