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一目惚れ

 爽やかな春風が、一通の喜ばしい知らせを運んできた。 晴れ渡る青空同様、速水家には大輪の花が咲いたかのようなおめでたい雰囲気に包まれていた。  「静流、おめでとう!!」 「父さん達も鼻が高いよ」 両親は手放しに息子の手柄を褒め称えた。  ここ速水家の長男、速水静流(はやみ しずる)は、この春めでたく全国屈指の進学高校・阿川学園に見事合格したのだ。 「でも本当にいいの?寮にまで入れてもらって…余計な出費を…」 それでも天狗にならないのが若干15歳の静流の偉大なところ。 「子供が余計な気を遣わんでいい!」 父親は立派な腹に大声を響かせて笑い飛ばした。  そんな祝福ムードの中、一人だけ浮かない顔のものもいた。 「お兄ちゃん…やっぱり遠くへ行っちゃうんだ?!」 半べそをかいているのは静流の弟・樹である。 「ちゃんと夏休みと冬休みには帰ってくるよ」 かわいい弟を宥め、後ろ髪を引かれる思いを抱きながら、静流は上京した。  春休みの間に入寮を終え、学校からのうれしい入学祝(=早速の課題)をこなし、いよいよ入学式。  余裕を持って春休みを過ごし、準備万端、と思いきや、なんと校内で迷ってしまった。 開始時間が刻々と近付く。気ばかり焦るが方向音痴の静流にはなすすべも無かった。 「君、新入生だろ?もうすぐ式が始まるよ」 「あ、えと、迷ってしまって…」 パニクリながら振り返ると、そこには一目見て上級生と分かる落ち着いた雰囲気の、利発そうな少年が立っていた。 「ああ、ここの建物は複雑だからね。案内してあげるよ」 と、ひとまず式場である体育館には無事辿りつけたわけだが、静流の心臓は早鐘状態、式どころではなかった。 (ステキな人だったな…やさしくて落ち着いていて、大人っぽくて…) 妄想に耽っていると、突然耳に今朝聞いた声が入ってきた。 前を見やると、朝の麗しの君(命名:静流)が堂々と挨拶なんかしているではないか。 そう。彼は生徒会長だったのだ。  生徒会長という目立った立場なら、素性を探るのも訳ない。名前は保科洋介(ほしな ようすけ)、3年生。クラブには入っていないらしい。 廊下などでちょくちょく見かけるが、向こうはもう静流のことなど忘れているようだ。 ――これは、行動あるのみ。

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