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最悪の出会い

 もろに長男気質の静流は、入学後の成績も優秀、人当たりも良く、クラスでも頼れるお兄さん的存在となった。  その日も、来週行われる球技大会のメンバー決めやらを仲間と相談していた。 そんなさなか、ピンポンパン♪と校内放送アナウンスが…。 『蒼城紫苑、蒼城紫苑、何をおいても今すぐ職員室に来なさい!!』 なんとも勢いのある、簡潔かつブチ切れたアナウンスだった。 「あの蒼城ってヤツもよくやるよなあ」 「ホント。今度は何しでかしたんだ」 静流と話していた仲間達もそんな話をしている。 「…誰?」 恐る恐る静流が尋ねると、オーバーなリアクションを返された。 「えーっハヤミ知らんのぉぉーっ!」  聞くところによると、1年E組蒼城紫苑(そうじょう しおん)という生徒は、入学式早々遅刻しそうになったからといってノーヘル無免で体育館にバイクを横付けしただの、校内で煙草を吸っているところを何度も目撃されているだの、とにかく台風の目のような存在らしい。  静流はこの手の――つまり、決まりを守れず、周囲に迷惑をかける不良と呼ばれる輩が大嫌いなので、なるべくなら蒼城という生徒とは一生関りたくはない、なんて考えていた。 その点保科先輩は正反対。優しくて穏やかで生徒会長だし。さぞや真面目で人望も厚いんだろう。  3年生と言うことは来年の春卒業してしまう。いっそ生徒会役員に立候補してしまおうか… 俯き、ブツブツ言いながら歩いていると、突然目の前に星がチカチカして、そして視界が真っ暗になった。 「ってーなーおい!!前見て歩けよこの…」 訳もわからず浴びせられる罵声に、静流は相手の顔を見るべく顔を上げた。  どうやらこの目の前にいる、血の気の多い、頭の悪そうな少年とぶつかったようだ。お互い廊下に尻餅をつき、静流のメガネは割れていた。 静流が顔を上げてから、相手の少年の罵声はぷっつりと止まっている。  「…飛び出してきたのはそっちでしょう」 静流が溜息混じりにメガネを拾いながら、軽蔑を含んだ口調で言い放つ。 「何?!」 我に返った少年が言う。そんなことお構いナシに、静流がもひとつ。 「メガネ、弁償してくださいね。僕は1‐Cの速水静流、あなたは?」 「…1‐Eの蒼城紫苑だっ」 腹立たしいのを必死にこらえているのが良く分かる。しかし静流の攻撃は収まらない。その名を聞いて、余計に闘志が漲った。 「ああ、なたが」 にっこりと愛想のいい笑みを浮かべる。 「俺のこと、知ってんのか?」 ちょっと不思議そうに紫苑が訊く。 「お名前だけは放送でしょっちゅう耳にしてますから」  紫苑は静流が去った後も苦虫を噛み潰したような顔で、その場に座り込んでいた。  なんて性格の悪い、イヤミなヤツなんだろう。 なんて人を見下した高慢ちきだ。  速水静流――でも、かなりタイプ。  数日後。寮母から預かり物を渡され、静流は部屋に戻って包みを開けてみる。 中身はなんと、メガネ。 しかもかなりすごい高級ブランドの。 メガネ、ケース、そして手紙が。 『この前はゴメン!コレも何かの縁とゆーことで、仲良くしよーぜ! 俺友達少ないから、よろしく頼むわ。 そーじょーしおん』 なんだ、意外と普通のヤツなんだ。 メガネは本当に弁償させる気なんてなかったけど、今は他にないから使わせてもらお。  翌日の休憩時間、廊下で静流と紫苑が出会った。 「おっハヤミ!やっぱ似合ってるよ~さすが俺♪」 例のメガネをかけている静流を捕まえ、有頂天な紫苑。 「あ…これは、他に無かったから…でも、ごめんね、こんな高そうなものを…本当は弁償しろって言ったのも勢いで…」 そんなこんなで話してる二人は、周りから見るととてもミスマッチな二人だった。

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