6 / 87
救出
放心状態のまま自室のドアを開けると――
「おかえり」
少しばつが悪そうに、紫苑が遠慮がちに言った。
静流はかなりムッとした表情で、めがねを外した。そして、紫苑に抱きついた。
「お前――何泣いてんだよ。生徒会長さんにフラれたか?」
紫苑が戸惑いながらも静流の背中に腕を回す。
「ふ…ふられたんじゃないけど…つらくてつらくて、どうにかなりそうだ――」
紫苑は静流を一旦離し、口付けた。今度はとろけるように優しく。そして、今までに見たことがないような真剣な表情で、静流の目をまっすぐに見て言った。
「俺だったらお前を絶望させたりしねぇ。――絶対」
静流は涙がこぼれるのを、止めようとするのをやめた。ばたばたと制服の生地の上に、音を立てて涙が転がって行く。
「今はあいつの身代わりにでも、気晴らしの道具にでもなってやるよ…静流」
卑怯だ。こんなのは卑怯だよ。そう思いながらも、静流は抗えなかった、否、抗わなかった。今のズタズタの心の傷口に、人の優しさが入りこみ、傷を癒して行く。救われるような気持ちだった。
「――いつか、俺だけしか見えなくなる」
そんな紫苑の言葉も、素直に受け入れられる気がした。
優しくベッドに導かれ、体を横たえられる。
前のときと全然違う扱い。前が強姦なら、今度は恋人同士の愛ある行為だ。
前と違うのは、紫苑の扱いだけではない。静流の心の持ちようだ。
紫苑に身を委ね、紫苑の優しさに埋もれた。
気の持ち方一つで、こんなに気持ちいい。
理想と真逆だった先輩なんて、もういいや。
ここに、自分だけを見てくれる人がいるなら、それで。
「静流、俺ウソつかねーだろ」
「えっ?」
終わってからも、二人は抱き合った格好のまま、互いに腕を体に巻きつけて横になっていた。
「もうお前、俺しか見えてねーもん」
「わかったようなこと言うなよ」
「好きなやつのことなら、なんでも分かるんだよ」
「お前さー」
一段落ついて、静流がシャツを着ようとしていると、紫苑がベッドから言い出した。
「もーちょっとカッコかまえよな。素材はいいモン持ってんのに」
…早速恋人気取りか。
「服だってモロ高校生だしよー」
…高校生なんだからいいじゃないか。
「メガネもコンタクトにしたほうが絶対いい!」
…大きなお世話だよ…
そこで静流の反撃。
「そんなに言うなら僕だって蒼城に言っておきたいことあるんだぞ!校則ちゃんと守れよな!その髪だって校則違反だろ、タバコは法律違反だしっ」
…うるせー。おかんより口うるさいじゃん…
ともだちにシェアしよう!