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救出

  放心状態のまま自室のドアを開けると―― 「おかえり」 少しばつが悪そうに、紫苑が遠慮がちに言った。  静流はかなりムッとした表情で、めがねを外した。そして、紫苑に抱きついた。 「お前――何泣いてんだよ。生徒会長さんにフラれたか?」 紫苑が戸惑いながらも静流の背中に腕を回す。 「ふ…ふられたんじゃないけど…つらくてつらくて、どうにかなりそうだ――」  紫苑は静流を一旦離し、口付けた。今度はとろけるように優しく。そして、今までに見たことがないような真剣な表情で、静流の目をまっすぐに見て言った。 「俺だったらお前を絶望させたりしねぇ。――絶対」  静流は涙がこぼれるのを、止めようとするのをやめた。ばたばたと制服の生地の上に、音を立てて涙が転がって行く。 「今はあいつの身代わりにでも、気晴らしの道具にでもなってやるよ…静流」  卑怯だ。こんなのは卑怯だよ。そう思いながらも、静流は抗えなかった、否、抗わなかった。今のズタズタの心の傷口に、人の優しさが入りこみ、傷を癒して行く。救われるような気持ちだった。 「――いつか、俺だけしか見えなくなる」  そんな紫苑の言葉も、素直に受け入れられる気がした。  優しくベッドに導かれ、体を横たえられる。 前のときと全然違う扱い。前が強姦なら、今度は恋人同士の愛ある行為だ。 前と違うのは、紫苑の扱いだけではない。静流の心の持ちようだ。 紫苑に身を委ね、紫苑の優しさに埋もれた。 気の持ち方一つで、こんなに気持ちいい。 理想と真逆だった先輩なんて、もういいや。 ここに、自分だけを見てくれる人がいるなら、それで。  「静流、俺ウソつかねーだろ」 「えっ?」 終わってからも、二人は抱き合った格好のまま、互いに腕を体に巻きつけて横になっていた。 「もうお前、俺しか見えてねーもん」 「わかったようなこと言うなよ」 「好きなやつのことなら、なんでも分かるんだよ」  「お前さー」 一段落ついて、静流がシャツを着ようとしていると、紫苑がベッドから言い出した。 「もーちょっとカッコかまえよな。素材はいいモン持ってんのに」 …早速恋人気取りか。 「服だってモロ高校生だしよー」 …高校生なんだからいいじゃないか。 「メガネもコンタクトにしたほうが絶対いい!」 …大きなお世話だよ…  そこで静流の反撃。 「そんなに言うなら僕だって蒼城に言っておきたいことあるんだぞ!校則ちゃんと守れよな!その髪だって校則違反だろ、タバコは法律違反だしっ」 …うるせー。おかんより口うるさいじゃん…

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