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受験

 まさか3年生にもなって初めての停学処分を食らうとは。親が聞いたら泣くな。 静流はとぼとぼ寮へ向かって歩いていた。  すぐ後から紫苑がやってきて、柄にもなくもじもじしながら静流に話しかける。 「しず…勉強、教えて欲しいんだけど」 静流は嬉しかった。やっとやる気になってくれたのか。まるでデキの悪い子供を持つ母親だ。だから勿論笑顔で快く承諾した。  「どこをどう間違えばそーなるんですッ」 パコーンと、とても軽い音が響く。どうやら隠れスパルタだったらしい。 間違うたびに丸めたノートで叩かれる。この上ない(?)屈辱だった。 しかも、正解率によっては、泊めてもらえない(=させてもらえない)のだ。 夏休み中、紫苑はずっと静流に虫けらのように扱われた。 「中学校からやり直し!!」 「おーやってやらぁ!」  しかし、今思えば、静流も自分の勉強の時間を削ってよく付き合ってくれた。それにあの扱いはきっと紫苑の性格―超負けず嫌い、エサに弱い―を見抜いてのことだったんだろう。  紫苑は、夏休みが終わって、静流に感謝せずにはいられなくなる。 夏休み開けの実力テストで、約300人中200番以内に入った。いつもは250番ぐらいなのに。 「紫苑!よく頑張ったねー」 静流が駆け寄ってきて、二人は抱き合ってキャッキャと喜んだ。見ているほうが暑苦しい。  「この調子で頑張ればD大も夢じゃなくなるよ」 D大とは、Aランクの中では最低ラインの大学。静流はできればそれ以上落としたくなかった。 「ん…でも、しず自分の勉強あるだろ…それにお前ならB大ぐらい…」 「らしくないなー!いいんだよ、そんなこと気にしなくても」 静流が紫苑の肩をポンポン叩いて笑いかける。 「僕は、紫苑と同じトコに行きたいんだよ…」 間近に顔を持ってきて、真剣なまなざしでそう言われると、紫苑もまんざらではない。 「そ、そう??」 「そーだよぉ。だからこれからもこの調子で…」  スパーン。 「ちがーう!!」 結局これがやりたいだけなんじゃあないのか?と、一抹の不安を感じる紫苑。  夏休み明けの三者面談。紫苑の場合。 「蒼城…確かに今お前は急上昇中だが、D大はちょっと、いやかなりしんどいぞ…」 「いーじゃん別に!ほかも受けんだしよ!」 舌を出しての悪態に、母親は入る穴を探した…。  静流の場合。 「速水…なんでD大なんだ?君の実力ならA大だって努力次第では…」 先生も母親も同じ事を言う。しかしそこは静流、さすがである。 「やりたい学科がそこしかなくて。偏差値だけで大学を決めるつもりはありません」 にこやかに、優雅に、ウソ八百。 「そ、そうか…さすが速水ほどにもなると言うことが違うな…」 すっかり圧倒されてしまった先生。  紫苑はそれからも頑張った。生まれてこの方したことのなかった努力というものを、 今まで使っていなかった分使いきった。ただ、ヤりたいがために…。

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