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受験

そしてついに、すごいことが起きた。  二学期の中間試験。なんと紫苑は英語で92点という、生涯自己ベストを出した。 「すごい!!ちなみに僕の点数教えてあげましょうか」 静流が喜び勇んで言う。 「いらねーよ、この期に及んでイヤミなヤツ…」 「88です」 紫苑、一時停止。 「やっぱり英語に重点置いてやっててよかっ…」 「久しぶりだ…」 もう静流の話など聞いちゃいない。紫苑は静流をがばっと抱き込み、頬擦りした。 「今日はいいだろ?文句ねーだろ、この点で」 「――もちろん」 「ヤりたかったぜ、しず…」  静流の方も、こうも伸びるヤツを教えるのは、楽しかった。相変わらずのスパルタぶりだが。  そして、中間後の面談では、紫苑にDはおろかC大へのゴーサインが出された。 倍率から行くとCの方が入りやすいかも、なんだそうだ。  紫苑自身も勉強が楽しくなってきたらしく、真剣にC大に向けての勉強をやり始めた。 期末では、憧れの2ケタに突入。 周りからも、静流の名家庭教師ぶりが評判になるほどである。  そしていよいよ年も明け、受験シーズン到来……。 試験のしょっぱなは大本命のC大。 「紫苑、大丈夫?」 あろうことか、紫苑はその日38℃の熱を出していた。結局、ツメが甘いと言うことか。 「くっそーなんでよりによってこんな時に風邪引くんだ…普段全然引かねーのに」 心配そうな静流と別れ、紫苑は自分が受験する教室に入った。 そして、試験開始――。 ちきしょーちきしょー、風邪ぐらい引いてても大丈夫だ。 あんだけやったんだから…。 「?!」 熱でボーッとしていた意識が急にハッキリした。 この問題が解けるまで寝かさない、と、いつものように静流に苛められた問題だ。 全く同じ問題が出題されているではないか。 このときほど、静流に感謝したことはなかった。  「紫苑!どうでした、体調の方は」 あえて手応えは問わない静流。 「…受かったな」 自信満々に言い切る紫苑。 「なんでそうなるんだよ」 「だって前やったトコ出たじゃん!」 「あの問題解いたことある人、何人いると思ってるんです!!」 発表は約10日後。3日後に試験を控えたD大の発表より遅い。  その3日後。その日は紫苑の体調も絶好調。 「ま、今日はすべり止めみたいなもんなんで、気楽に行きましょう」 余裕の笑みで別れる。 が――― 問題用紙を見て、紫苑は用紙と同じような顔色になってしまった。 解答はおろか、問題の意味さえ分からない。  「紫苑どうでし・・」 言い終わる前に紫苑の体当たり。 「あんな問題知らねーよ!!」 「知らない問題で当たり前なんです!!」 「前は知ってたじゃん!」 「たまたまラッキーだったの!」 発表は2日後。  その日、静流は母の声で目覚めた。 果報は寝て待て、とでも言わんばかりに、静流は電報が来ることなど気にもとめずに眠りこけていた。  結果は、勿論合格。そりゃD大は受かってないと、と一応胸をなでおろしたとき、電話がなった。 「はい速水――」 「――しず?」 …声のトーンが低い。 「――D大落ちた」 暫くはなんの言葉もかけられなかった。重い空気。 「しずは受かったよなぁ…?」 「…うん、一応…」 「…」 「…」 「ま、まぁ本命C大だし!C大の合否がわかったらすぐ電話してよ!ねっ」 勤めて明るくそう言って、静流は受話器を置いた。  そして。 静流のところにはもうとっくに合格を知らせる電子郵便が届いていると言うのに、紫苑からはなんの連絡も無い。  いても立ってもいられなくなって、遂に静流の方から電話をかける。 「紫苑?!まだ来てないの、郵便!!」 「――来たけどよー…」 煮え切らない態度にますますイラつく。 「ごっ、合否わかったらすぐ知らせてって…」 「わかんねーから知らせてねんだよ」  補欠、らしい。手続き締め切り後、欠員が出た場合、合格となるそうだ。 このいても立ってもいられない日々が、1週間ほど続くのかと思うと、気がおかしくなりそうだった。

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