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からまわりの横恋慕
「今日は静流さんお休みなのね♪」
上のような気持ちでついてきたからには、水原はゴキゲンだった。
「ね、ところでどうしたの?あんなドラマチックに誘い出したりして…」
紫苑の足が止まった。
振り返るや否や、水原自慢のサラサラストレートロングヘアを引っ掴み、壁に叩きつけた。
「いたっ!」
「しずに何した」
まるで感情のこもってない瞳。水原は心底恐怖を感じた。
「きーてんだろが」
ペシッと水原の頬に打たれる裏拳。ついに水原の目から涙がこぼれた。
「泣きゃー許してもらえると思ってんじゃねぇぞ。しずはもっと、誰にも話さねーで耐えてたんだ…てめーなんかのためにだぞ!」
反論も何もする余裕なく、水原はただ涙を落とすだけ。
「今度何かしやがってみろ、女だからって容赦しねぇ…二度と人前に出れねーツラにしてやる」
紫苑は冷たい、蔑みの眼差しで水原を一瞥すると、教室に戻って行った。
――か、かっこいい……
…この期に及んで…。
「しず!しず!!」
ドタドタと部屋に上がりこむ。静流は紫苑の言い付けを守り、まだ寝ていた。すやすやと寝息を立てる静流を、紫苑は起こすのをやめた。本当は今すぐ、いろいろ謝りたいけど。
寝ている静流のベッドに寄り添い、顔を近づけ、紫苑は独り言のように話し出した。
「しず…ごめんな、俺全然気づかなくて…」
「紫苑…?」
静流が目を覚ました。
「何でも一人で背負い込むなよな…」
そのまま紫苑は静流の横に潜り込んだ。
「ごめん…」
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