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からまわりの横恋慕
「しず、…しず?」
コトに及んでいる最中も、静流の反応は鈍い。
「どーした?具合悪いのか?」
実際、静流はかなりデリケートで神経質なため、精神的に参るとすぐ体に不調が起きるのだった。
「何でもないんだ…」
と言うものの、だんだんと酸っぱい唾液が口の中いっぱいに広がってきた。胃もひくつく。
次の瞬間、静流は勢いよく起きあがり、トイレへとダッシュした。
「しず…まさか、にんし…」
「誰がです」
首を締められ最後までは言わせて貰えなかった。
「ちょっと疲れてるみたい…大丈夫だから。ごめん、中断して」
その表情はあまりにも儚く、美しかった。少しでも乱暴に扱ったら、簡単に壊れてしまいそうな…。
「今日はゆっくり休も」
存在を確かめるようにきつく抱きしめ、紫苑は言った。本当はこんな中途半端で止めるなんて、拷問のようだったが、こんな静流を今以上疲れさせたくない。
「でも…」
「いんだよ別にヤらなくたって」
翌朝も、ノートはちゃんと取ってくるからしっかり休むように、と言い残して、紫苑は一人大学へ向かった。
「紫苑おっす。今日は一人?静流は?」
よく講義で一緒になる学生が声をかけ、隣に腰を下ろした。
「なんか疲れたまってるみたいで~…心配でちゅ」
「ああ…無理もないか、あれだけ毎日…」
気の毒そうに言う。紫苑はなんのコトかわからない。
「ほら、水原女史、最近紫苑にはちょっかい出さないだろ。静流から先に追い詰めて行こうって魂胆だぜ」
ここまで言って、はっとした。
「ひょっとして、何も聞いてなかった…?」
恐る恐る紫苑の方を見ると、顔からぴきぴきという音が鳴り始めていた。
毎日みっともないほど大人気ない嫌がらせで、静流も平静を装っているがかなりキツイのでは、と聞かされ、紫苑は一目散に水原が講義を受ける教室へ飛んだ。
勢い良く、教室の引戸を足で開ける。
「講義中ざますよ!」
ヒステリックに女教授が叫ぶが、そんなこと気にしちゃいない。
「水原ァ!表出ろや!」
水原は立ちあがった。
――ついに、告白の時――?
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