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からまわりの横恋慕
バシャッ。
「うわぁっ」
構内を歩いていると、突然足元に水をかけられた。
「あらごめんなさ~い。花に水あげてたら…」
無気味に笑う水原。静流は全く意に介さないと言う顔で、
「構いませんよ。誰にだって失敗はありますから」
水原は内心、こいつバカじゃねぇの、と思った。
静流はニコニコ顔を絶やさぬまま、自分も水道の方へ近づいて行く。
「感心ですね、花に水をあげてたなんて。僕も手伝おうか…なっ」
蛇口を指で押さえて、水原の顔めがけて水を飛ばした。
「あ、水原さんでしたか。ごめんねー。僕にはあなたが美しい花に見えたものですから」
水原の執拗なイケズは、講義中でも遠慮なく実行された。
静流のプリントが風に飛ばされ、机から落ちた。
タイミングを狙っていたかのように水原が通りかかり、そのプリントをわざとらしく踏み付けた。
「まぁ!これ静流さんのプリントだったのかしら?」
白々しくすまなそうな顔をする水原に、静流は言った。
「水原さん…表出ましょう」
「何なのよー、講義中なのよ!」
教室から少し離れた廊下で並ぶ二人。
疲れた表情で静流が話し出す。
「僕は君の嫌がらせに屈することは無い、これから先もだ。ただ少し…疲れてるんだ」
「疲れてるんならガッコ来なけりゃいーでしょ」
勝ち誇ったように言い放つ水原。
「――君は、『北風と太陽』読んだんだろう?…まるきり忠告の意味無いじゃないか。僕は君からされたこと、何一つ紫苑には言ってないんですよ。言えば…どうなるかわかってますからね」
「ど、どうなるって言うのよ!」
「―誰だって自分の好きな人に嫌がらせしてる人のこと…憎みこそすれ、好きになんてならない。そのくらい君にだって分かってるでしょう。ましてや血の気の多いヤツのこと…
何をするか分かりませんよ」
「脅そうったってそうは…」
「そう思っててもらっても構いません、ですが…君がヘンなことすればするほど僕らの仲は深まる。そして僕は逆境ほど燃えるタチです。あとはご自由に」
堂々たる、宣戦布告。
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