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からまわりの横恋慕

 そういう思考回路の結果、”馬”を探し出した。 「静流クン、きいて!私今朝紫苑クンに…」 涙ながらに訴える。が、静流。 「紫苑から聞きました。役者になれるって褒めてましたよ」 いつものスマイル。  水原の頭でぷちっという音がした。 「まぁ、そこまでしてでも手に入れたいでしょうけどね、うちの紫苑は」 心なしか嬉々とした表情で話す静流。 ――紫苑よりタチ悪いぞ、この馬―― 「あ。水原さん、『北風と太陽』って話知ってます?」 「知るかっ!知ってたらどないやっちゅーねん」 「読んだ方がいいですよ。今のアナタに、きっと役立ちます」 とぉっても爽やかに去る静流を、水原はいつまでも恨めしく見送っていた。 一方、去った静流と連れの会話。 「静流キッツー」 連れが笑い転げている。反して、静流の顔にはさっきまでのスマイルの欠片もない。 「当たり前ですよ。紫苑を落とし入れようとしたんですからね」  「…これね」 素直にも水原は図書館で『北風と太陽』を探していた。  何よ、童話じゃない。バカにしてんのかしら。 …  ふ。この北風、バカみたい。一人で空回りじゃない。 … …… 「あんのヤローっ!!!」  ぱっこーん。 何故か、静流の後頭部にスニーカーが直撃した。 「あらごめんなさーい♪静流さん、先ほどは良いご本を勧めていただいて…とってもタメになりましてよっ」 最後の「よっ」で、思いきり静流の足をパンプスで踏んづけた。 「またお会いしましょうね」 「ええ…是非近いうちに…」 静流の顔は引きつっていた。 …水原さん、きみは僕の性格を理解してらっしゃらないようだ…  「紫苑クン!一緒にお昼食べましょう♪」 どのツラさげて、と言いたいところだ。 「い・や!!しずと二人で食うの!」 そう言ってまた静流を抱き寄せ、水原の神経を逆なでる。 「ヘン!何よしずしずしずしずって!」 「てめーはしずって言うな!」 「何がアンタたちをそこまでくっつけてるわけ?!どこがいいのよ男同士でっ」  水原は、直後にこの愚問を悔やむ。 「頼りになるトコ」 と静流が言えば、 「繊細で守ってあげたくなるトコロ」 紫苑も応じる。 「破天荒なトコ」 「純真無垢なトコ」 「顔が好み」 「床上手」 好き勝手言い合った挙句、 「ねーっ」 と互いに見合って声を合わせる。水原でなくてもいい加減イラッとしてくる。  「見た?!あんトキの水原の顔!」 「悪いけど笑い堪えるのに苦労したよ」  二人は腹を抱えて笑っている。 「でも紫苑…高校のときは答えなかったね、同じ質問されたとき…」 急に真顔になって静流が言う。 「『好きになる』のに理由はねーけど、好きになってから好きなトコがいっぱい見つかったんだよ」 顔をそむけて恥じらいながら紫苑が言った。耳のあたりが赤くなっているのが見える。 「僕も――あれから紫苑の好きなトコいっぱい見つけたよ」 結局、なにがどーなっても二人はラブラブなのである。

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