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ゆっくりと、知っていく

「ただー今っ。今日静流泊めるからなー」 紫苑と静流が蒼城家に帰宅したのは22時を過ぎたころ。 「紫苑ちゃん、晩御飯は?」 紫龍がひょいとキッチンから顔を出す。 「食ってきたよ!!『ちゃん』つけんな!」 恥ずかしくて赤面しながら怒鳴りつける紫苑に、今度は泣き落としだ。 「…せっかく速水くんにも食べてもらおうと思ってハリキったのに…」 「すみません…また後でいただいてよろしいですか?」 申し訳なさそうに静流がたずねると、紫龍は静流の手をがっちりと握りしめて言った。 「んまあっ、なんておやさしいのかしら!」 「行くぞ」 紫苑は呆れながら静流を引っ張って自室に入った。 「それにしてもお兄さん…本当に女の人みたいだね」 静流が意までも信じられない、という風に感嘆して言う。 「だろ?ウチの家族ってへんなんばっかしだけど性格はいいんだぜ」 (君以外な…) ちょっと得意げに自慢する紫苑に、静流は心の中でそうつっこんでいた。 「特に龍はおれ一番好きなん…」 不意に紫苑の唇に静流のそれが重なった。 初めてだった、静流からしてくるなんて。 「静流……」 二人は見つめ合い、沈黙が流れた。と、 「紫苑ちゃんっ、おフロ沸いたから速水くんに入ってもらってねー!」 遠くから紫龍が叫んでいる。 「ヤるのはその後だぞーっ♪」 続いて紫雲のヤジ。 一気に興ざめした二人は、紫龍の言うとおりにすることにした。 「おフロお先にいただきます」 両兄に軽く会釈して静流が去った後、両兄が紫苑を呼びとめた。 「速水くんていい子ね。兄ちゃん達応援してるわよ」 「あんな子が弟になってくれるなら文句無いよ。あの子ならお前の面倒も見れそうだし」 「なんてったって紫苑はウチのベストオブオトコマエだもんなー」 はっきり言って大馬鹿兄どもだ。だが紫苑は感動に打ちひしがれて、煙草を持つ手が震えていた。 「どうもごちそうさ…」 すっかりいい気分で湯から上がった静流がやってきて、言葉を切った。 「まだ煙草やめてなかったのかーッ?!」 髪を引っ張る静流と降参の姿勢をとる紫苑を見、両兄はこの子になら安心して紫苑を任せられる、そう感慨に耽った。  部屋に戻った二人は、アルバムを見たりTVゲームをやったり、『家ではヤらない』(すぐ邪魔が入るから)という紫苑のポリシーから、最後までは行かないものの、その分飽きるまでイチャイチャしまくっていた。  しかし、紫苑が風呂から上がって、TVゲームの勝敗でケンカになり、もみくちゃになっていたら、いつのまにやらそういう雰囲気になってきてしまった。  その夜、紫苑は自分のポリシーを捨てた。  「今日はヤケに燃えてんじゃん。いいねぇ、静流のそーゆー顔。俺しか知らねー顔だ」 恍惚とする静流の上で優越感とも征服感とも言えるような満足に浸る紫苑。 「本当に…イヤになるほど僕のことわかるんですね」 そんなところまで分かって欲しくない。恥ずかしい。静流は内心そう思った。 「迷いが…消えたんだよ。今までどこかで『これでいいのか』っていう迷い…ただ紫苑から好きって言われたからその気になってるだけじゃないのかって」 紫苑の首に両の腕を回して、甘えるようにくっついて静流は言葉を続けた。 「だけど今は…紫苑とこうしてるのが気持ちいい、こうしてたいって思う」 応えるようにきつく抱きかえして、そのままゆっくりと床に静流を寝かせる。 「お前は――時々めちゃくちゃ嬉しいこと、サラッと言ってのけやがる。…そのお前の一言一言で俺が、そのたびにどんだけ喜んでるか知ってるか――?」 「わかってるさ」 微笑を湛えて口付ける。 「好きな人のことならなんでもわかるんだろ?」 「でもッ」 俺様気質としてはちょっと形勢が不利になったのか、紫苑は急に強がって動きを荒げた。 「俺のほうがずっと前からお前のこと好きだったんだからな」 「――ッ、わかったよ…」 「寝たのかしら?」 「やってんでしょ」 By両兄。

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