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ゆっくりと、知っていく
抱き合い、愛撫されながら、いつも思うこと。
蒼城とこうしていると、自分がすごく悪い事をしているような気になるのはどうして…?
男、だから――?
それとも、初めのころ誰でも抱く、こういう行為に対する漠然とした罪悪感なんだろうか…
「静流ッ!!」
またも上の空な静流を敏感に察知し、紫苑は静流から離れた。
「フン、お前は授業サボってまで没頭できるタチじゃねーもんな」
くるりと背を向け、一人でさっさと階段に向かう。
そんな紫苑を、静流は少し愛おしく思う。
「待ってよ」
さっきの罪悪感は、きっとまだ、本当に好きなのかどうか確信が持てないだけだ。
はっきり言えるのは、今、すごいスピードで魅かれていっている最中だということ。
「待てってば、紫苑」
紫苑が足を止める。そしてゆっくりと、様子を伺うように振り向いた。
「…」
横目でじっと静流を見ている。たまらなく可愛い、と思った。
「どしたの、紫苑」
「『紫苑』……?」
ニ~と笑みを漏らしたかと思うと、静流に勢いよく抱きついた。
「静流大好き。静流っ」
「…僕も」
遠くで授業の始まりを告げるチャイムが聞こえたような気がした。
「天気も良いし、どっか行こうか」
珍しく積極的な静流にすっかり気分を良くし、紫苑はご機嫌。
「な、ヨコハマ見物しろよ、寮寄って着替えてさ。んでウチ泊まっていったらいーじゃん」
紫苑の家は横浜にある。
寮に寄り、外泊許可を得て、いざ出発、は良いが、紫苑のハイテンションには閉口せんばかり。とりあえず先に一旦紫苑の家に行くことになった。
「ただいまー」
静流は少し緊張しながら、紫苑の家族との対面を待っていた。
「彼氏つれてきたぞー」
これにはベタにコケる程の衝撃を受けた静流だったが、当の蒼城家はまったくもって普通に迎え入れた。
「いらっしゃい。弟がいつもお世話になって…」
二十歳前後の、嫌味のない美人が最初に出迎えた。
「はじめまして、僕紫苑くんと同じ学校の速水静流と申します…」
粗相があってはならないと、懸命に挨拶するが、
「こちらこそはじめまして。紫苑の兄の紫龍です」
ニッコリこう言われては、静流もあんぐり口を開けっ放すしかなかった。
その他、ゲイの長兄・紫雲、ビアンの姉・紫衣、バイの父、そして唯一ノーマルな母の6人家族。全員の紹介が終わったころには、静流は故障していた。
そりゃ、あんな家庭で育てば、常識も何も無くなるわい、と思った。
紫苑が、着替えを済ませてやってきた。前髪の分け目がいつもと少し違う。
家を出てから、そっと静流が紫苑に言った。
「髪、そうしてるほうがかっこいい」
紫苑の顔は火が出そうなほど真っ赤になっていた。
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