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ゆっくりと、知っていく
なんか最近静流ってナチュラリーだな、などと噂されるようになったのは、紫苑と付き合い始めて2ヶ月ほどが経過した頃だ。
実際、傍から見て静流は、以前よりも自然な感じだし、当の静流自身も、肩の荷が下りたような快適さを感じていた。
以前は頼れるお兄さん、というイメージが強かった彼だが、なんとなく今となっては可愛らしくさえ思ってしまう。
そんな評判は、あくまでもひっそりと、囁かれていた。なぜなら――
「とおりゃっ」
ニコニコ話している静流の背後から、紫苑が飛びかかってきた。
「誰にでもヘラヘラしてんじゃねーぞっ」
口の両端を抓り上げる。
「でっでもっ、蒼城のおかげなんです…」
痛いながらも必死で訴えると、やっと紫苑は両手を離した。
「自然体でいることがこんなにラクだなんて…ありがとう」
「よかったじゃん」
静流は心の中で思っていた。
蒼城紫苑とはとことんワケのわからないヤツだけど、一番不思議なのはこの根性悪がなんでこんな顔できるのか、という点だ。
そう思わせるに値する、まるで純粋無垢な子供のような笑顔を、紫苑はたまにする。
「でも礼なんて言うな」
紫苑の言葉に、見とれていた静流が我に返る。
「恋愛は常に50/50―――そうだろ?」
寒いセリフを吐き不敵に笑う紫苑に外野から野次が飛ぶ。”どこかよそでやれ”と。
さて、その野次通り本当に二人は屋上に場所を変え、軽くキスした後、紫苑が本題を切り出した。
「ところで俺の用なんだけどさ―――聞いたよ、生徒会のヤツから」
聞いた、と言うのは勿論、静流が生徒会の弱みを握ったことによって紫苑の退学が免れたことだ。
「余計なことすんなよ。てめーまで生徒会敵に回しちまうじゃんよ」
予想外の言葉に静流は驚いた。恩に着せるわけではないけれど、少しは感謝されるかと思っていた。
「余計なことって…今度バレたら退学だったんだろう?!」
半ば興奮気味の静流を尻目に、
「いんだよ、それならそれで」
紫苑はまったく動じる気配も無い。
「いい?本当に?!…もう毎日会えなくなっても――?」
肩を戦慄かせながら発せられた小さな声に、紫苑は初めて意思の疎通が誤って行われていることに気づいた。
「悪かったよ、おまえまで悪者になる必要はねぇって言いたかったんだ。それに――毎日会わなきゃ潰れる仲なん?俺らって…」
じっと静流を見据えて話す紫苑とは対照的に、静流は耳を少し赤くして、あさってのほうを見ながら話す。
「潰れるかどうかはわからない…けど…僕は…」
気が長いようで短い紫苑は苛立ってきた。
「毎日会いたい、ずっと一緒にいたいって言えよ!なんで自分の思ってることも言えねんだ」
図星をさされて真っ赤になりながら、俯いて、諦めたように静流は語る。
「僕は――そういうふうに育ってきたから。『お兄ちゃんなんだから我慢しなさい』『お前はウチの自慢の息子だ』って…」
そんな話を遮るように、くりっと静流の方に向いて紫苑が一言。
「静流。やらして」
「え、え?授業は…」
「もっと解放してやるよ、世間体やら常識から」
言いながら早くも静流の手首を屋上のコンクリート床にねじ伏せている。
「イヤか?」
「嫌じゃ…ないけど」
授業を心配していた静流も、いざ押し倒されてみると、高い空があまりにも青く大きくて、なんだか授業もどうでも良くなってきていた。
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