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苛立ち

 僕は――蒼城を『愛してる』んだろうか?  こういうことだけ求めてる…?だとしたら… 「やめた」 優しく愛撫していた紫苑が急に静流から体を離し、不機嫌にそう言い放った。  「しっつれーしちゃうよな、こんな時に上の空とはね」 ブツブツ言いながら服を着て、一方的に部屋を出てしまった。  人の気も知らないで。静流は一人取り残され、虚しさと腹立たしさとで気分が悪かった。 どうせ蒼城のことなんか、………  改めて考えると、不思議で仕方が無かった。元々紫苑と言う男は、静流が大嫌いなトラブルメーカー。世の秩序を乱す、不良ってヤツだ。おまけにすぐ怒る、手は出る…。  なんで、こんなに悩まなきゃなんないんだ。  「――えっ?」 生徒会室で、静流は固まっていた。 「君も知っているだろう、1-Eの問題児、蒼城紫苑」 苦々しい表情で、保科が話し出した。 「書記が、昨日ね…」 言いかける保科を遮り、得意げに書記がしゃしゃりでた。 「見たんだよ、ノーヘル原チャ二人乗り。あいつ次何かしたら退学になるはずだからな」 書記の表情は、心なしか嬉々としているように見えた。 「これから先生に報告に行こうと思っている。ああいう生徒がいると、阿川の評判もガタ落ちだからね」 呆れ顔で保科が言った。 「どーせウラ金でも使って入ったんじゃないですか。家は相当金持ちらしいですし」 会計も首を突っ込んでくる。  「――お願いです、今回だけは見逃してもらえませんか」 静流の発言に、一同は一瞬驚き、直後嘲笑に変わった。 「速水君らしくないな、私情を挟んでもらうと困るんだ…」 困ったように笑って保科が言えば、 「そうだよ、引っ込んでろ」 書記や会計の婉曲も何も無い、ダイレクトな攻撃。 しかし、静流はひるまなかった。 「どうしても、と言うのなら…僕も、あのこと言いますよ」 「……!」 一同、言葉を失うの図。 「お、お前、そんなこと言って生徒会にいられると…」 必死の書記の反論も、最早静流には効果がなく、 「こっちから辞めてやる、こんな腐った生徒会」 颯爽と去って行く静流。  教室に戻っても静流の興奮は冷めなかった。まだ手が震えている。  机に突っ伏して考えた。 何であんなこと言ったんだろ…あんなヤツのために、生徒会を敵に回してしまった。 ――でも、ちょっと気持いい、かも。  「ハニー」 突然、耳元で囁かれ、驚いて顔を上げると、紫苑がいた。 紫苑の顔を見ると、訳もわからず腹が立って、気付いた時には頬をはっていた。 「何すんだよ!!」 いきなりはたかれてブチギレの紫苑。 「もう…」 しかし、静流の様子がおかしいのにきづく。 「もう、僕を振り回すのやめてくれ…」  両手で顔を覆って、疲労困憊といった風に静流が力なく言った。そして、その反動でか、一気に怒鳴り散らした。 「お前に会ってから調子狂いっぱなしだよ!もうワケわかんないよ。悩むのはお前のことばっかりで…!僕の順風満帆な日々を返せよ…」 「静流」 少し遠慮がちに、静流のそばによって声をかける。 「それが、『好き』ってことじゃねぇの?」 「―――」 思わず顔を上げる静流。 「それにじゅんぷーまんぱんなんてつまんねーよ。俺と波乱万丈に生きろ」  ギャラリーも惚れ惚れしてしまう、最高の殺し文句。 静流はあっけなくKOされてしまった。

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