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ゆっくりと、知っていく

 あれ? 放課後、いつものように静流と一緒に帰ろうと思っていた紫苑は、教室の窓から見えた光景に自分の目を疑った。  静流が一人で、早々に校門を出ようとしているではないか。 朝のことを根に持ちやがって、と急いで階段を駆け下りる。 「――つきあって下さい…私、ずっと速水くんのこと…」 門のそばまで行くと、そんな声が聞こえてきた。 「気持ちは嬉しいけど…今、付き合ってる人がいるんです」 静流は誠意を込めて断っていた。 そんなところへ。 「静流ゥー!!」 必要以上にベタベタくっついて、これみよがしに静流に甘える。そして、 「やい女!知らねーよーだから教えといてやるけどよ、静流は俺んだぞ」 女子校生を睨めつけ、凄みをきかせて言い放つ。 ああもう、なんで出てくるんだよ、かえって話がややこしくなるだろ… 静流が頭を抱えていると。 「何それ…ホモってこと?速水くんホモだったの?!――気持ち悪っ!」 静流が機能停止したのと、紫苑の何かが切れた音がしたのは同時だった。 「くそアマッ」   鈍い音が、した。 「…相手の女生徒はアゴの骨がズレたそうだ」 職員室。紫苑と静流が立たされている。 「いいかげんにしてくれよ、蒼城――なんでそう次々と問題を起こすんだ」 大きく溜息をついた後、教師は静流の方に向き直った。 「今回は速水も関わってるのか?」 「はい」 「全く…君がついていながらこのザマとは…」 「先生」 嘆く教師の言葉を遮ったのは静流。 「蒼城がやってなければ僕がやってました」 「速水?!」 教師はかなり面食らったようだったが、気を取り直して話題を変えてきた。 「――それと、最近ヘンなことを耳にするんだが…お前たちが、その…付き合ってる、とか…な」 二人は何を今更、とぽかんとしていたが、それがどうやら教師には違う意味にとれたらしい。 「いや、あの、あくまでウワサだからな、どうせ根も葉もない…」 慌ててフォローしようとする教師に、 「ねぇ先生、校則では『不純異性交遊』は禁止されていますけど、同性は禁止されてませんよね。僕たち不純でもないし」 いつもの必殺聖母スマイルで静流はこう言ってのけたのである。  「かっこよかったぜしず」 帰りの紫苑は超ゴキゲン。それは結構なことだが、『しず』って――?? 「へ…?」 「みんなが静流って呼びやがるから俺はしずって呼ぶの!他のヤツには呼ばせねーっ」 こういうところ、やたらこだわる。 「けど…今日は無茶したのに怒んねーのな」 ふと核心に触れる。 「あれは…嬉しかったよ。『気持ち悪い』って言われたとき、紫苑がいなかったら僕は――」 悲しそうに笑う静流を、紫苑はきつく抱きしめた。 「見てらんねーよ、しず…お前ってホントはすげー弱くてさ」 紫苑に身を任せ、静流は目を閉じた。 「誰かに頼ることは許されなかった――僕はいつも頼られる側、守る側だ」 「俺頼れよ。俺が守ってやる。まだ俺なんか頼りないかもしんないけど、もっとちゃんとする、しっかりするから…」 静流の体から力が抜けて行く。 「ありがとう、紫苑は今でも充分頼りになるよ…」

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