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第16話
初日でオリエンテーションが中心だったため、10分くらい早く授業が終わった。バラバラと教室から学生が出ていく中、朔と明はプロジェクターを片づけている水無瀬の元へ向かう。二人に気付いて、水無瀬は柔らかく笑った。
「やぁ、また会ったね。まさか、受講者だったとは。えーと…君が…この前話した『朔』くんかな?」
朔と明を交互に見てから、朔に視線を向けて水無瀬が問いかけた。
「はい」と朔が頷く横で、水無瀬が下の名前で呼んだことに、明はあからさまに眉間に皴を寄せて訝しんだ。それを見て、水無瀬が苦笑する。
「いや、この前、君が呼んでたでしょ?『朔』って。それに、今は名簿があるしね。で、心配性なのが…」
手にした名簿から水無瀬の垂れ目が、明の名前を探す。
「『明』…くんってことか…あれ?この前はちらっとみただけだったから気づかなかったけど、明くんの方が少し瞳の色が薄いんだね」
二人の唯一吸血以外ではっきりと違う、けれど、気をつけて見ないと分からない細かな部分を指摘された。水無瀬は、丁寧に物事を見る男のようだ。
「…だから?」
しかし、それが余計に明の勘に触ったらしく、不機嫌さを一切隠すことなく明が唸り、朔の肩に腕を乗せた。
「…明?」
普段他者へ敵意も含めてあまり興味を示さない明の水無瀬への一貫した態度に、朔が不思議そうに明を見つめた。水無瀬も少し驚いたように目を見開くものの、すぐに人好きのする笑みを浮かべる。
「ハハ、朔くんは愛されてるねぇ。ま、これからよろしく。この前も言ったけど、授業の質問とか世間話とか、気軽に声かけていいから。…それと…、はい」
「「?」」
A5サイズのプリントを1枚ずつ渡される。
「今回の反省レポートのテーマね。期日と僕のメアドも載ってるから。1秒でも遅れたら、受け付けないよ。忘れないように」
穏やかな口調だが有無を言わせない言葉と共に、ノンフレームの眼鏡がキラリと光った。
ーーそういえば、そのために呼ばれたのだった。
明もそれ以上は何も言えず、ぴったりのタイミングで二人は返事をした。
「「……はい」」
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