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第1話

「腹、減ったな」 何気ない日常の、 それは、合図。  朔(さく)は、蛇口を捻り、水を止めた。着ているエプロンの前で簡単に手の水気を拭きながら、洗い終わっていない食器を尻目に、リビングのソファでスウェット姿で寛ぐ明(あきら)の方へ向かう。 その姿を満足そうに見ながら、明の切れ長な瞳が弧を描いた。 「ん」 つまらないバラエティー番組が流れるテレビを遮るように、朔は明の前に立った。冷水で冷えた朔の手を、明が掴む。 「冷てぇな。お湯にすればいいのに」 「手が荒れるから…」 「クリームでも塗ればいいだろ」 熱い指先が、労るように朔の指先を一本一本撫でていく。そして、全て撫で終えると今度は明の舌が指の股から先まで、ねっとりと舐め上げた。 「っ、ン」 こうやって明の口に入るから、クリームは塗りたくないのだという意見を、朔は上がりそうになる甘い声と共に飲み込んだ。 キャンディのように舐められながら、腰を引き寄せられる。 明の太股の上に乗り上げ、体が密着した。服の上からでも分かる。同じ遺伝子、同じ骨格のはずなのに、少しの生活習慣の違いで、肉の付き方が違う。自分よりも筋肉質なその体に、朔は鼓動を高鳴らせた。

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