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10.切なくなるほど可愛い人 10【終】

「僕ね、夢を見たんだ」 「なんだ? 怖い夢でも見たか? あ、わかったぞ。だから起きたんだろー」 そう言いながら千秋がケラケラと笑うので、かぶりを振る。 「違うよ。高校生の頃の夢」 するとへぇーと言いながら上半身を起こし肘をついた。 「えらい懐かしい夢だな」 「うん。千秋を好きになって、千秋が好きだって言ってくれるまでの夢」 「なっ!! なんつー夢を見てるんだよ」 恥ずかしそうに千秋は怒鳴って目を逸らしたけど、僕が覆い被さってキスすれば上目遣いになって僕を見上げた。 「恥ずかしい夢、みてんじゃねーよ」 「僕の夢なのに恥ずかしいの? でも高校生の千秋、可愛かったよ。今も可愛いけどね」 笑いながら千秋の頬を撫でようとすると、指を弾かれる。 「可愛いとか言うな」 けど、僕はそんな千秋も可愛いと思ってしまう。 「あ、そうだ今度制服着てくれない?」 「絶対、やだ」 「制服着てた頃が懐かしくなっちゃって。今度、実家帰ったら持ってこようか」 「やだって言ってるだろ!」 「それから思い出したんだけど、僕の気を引くために着てきたあの派手なシャツ。あんなの本当にどこで買ったの?」 「うるせーよ! 話、聞けよ。クソ修平!」 「教えてよ。どうせなら一緒に着ようよ」 「着ねぇって!」 そんな言い合いをしながら背を向けた千秋を後ろから抱き締めた。 「千秋、怒った?」 「怒ってる」 「ごめんね。まだもう少し眠れるから眠ろうか」 「そーだよ、俺は眠いんだよ」 「うん、ごめんね。もう少し寝ようね」 相変わらず悪態つく癖は変わらない。でも、抱き締めたら素直に腕の中にいてくれて、たまに千秋の気分次第で抱き締め返してくれたりする時もある。 そんな日常が穏やかで素敵だ。 淀んだどどめ色のようだった僕の心に鮮やかな色をくれた千秋はいつまでも特別で、そしてこれからもずっと一緒にいたいと思いながらそっとうなじにキスを落とした。 「千秋、愛してる……」 わかりやすくビクッと体を強ばらせた千秋は耳まで赤くして丸まった。 これもいつものことで、恥ずかしいって思ってるんだろうなって目を細めながら僕も眠ろうとした時、千秋がボソッと小さな声で呟いたんだ。 「お……、俺も……愛して……る」 これ以上、千秋を好きになってしまったら僕はどうなってしまうのだろう。 そんな不意討ちは僕の胸を貫いて、その度に夢中になってしまう。 僕は千秋の胃袋を掴んだ気でいたけど、心を鷲掴みにされているのはきっと僕の方だ。 そう思いながら抱き締める腕に力を込めてそっと目を閉じた。 ──好きになってくれてありがとう。 「おやすみ、千秋」 愛しくて、いじらしくて、大好きな僕の可愛い恋人。 きっと僕は、いつまで経ってもキミにはかなわない。   終

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