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10.切なくなるほど可愛い人 9
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ドカッと頭に何かがぶつかったような衝撃で目が覚めた。
「いたたた……」
せっかく良い調子で寝ていたというのに何事かと思いながら自分の顔面に乗っているものを掴むと、それは千秋の腕で、その千秋はというと「ゆで卵は半熟だぞ……」と言いながら寝ていた。
半熟のゆで卵が好きなのは知っているけど、一体どんな夢を見ているのだろうか。
時計を見れば午前5時を少し過ぎた頃だった。外はだいぶ明るくなってきているようで、カーテンの隙間からのぞく青白い光から夜明けが近いことがうかがえる。
(あれ……?)
見渡せば、ちょっとした異変に気付いた。
さっきまで自分の部屋にいたはずなのに……と思ったところで、ここは実家の自分の部屋ではなく大学生になってから千秋と一緒に住むようになったマンションの部屋だということを思い出す。
(あぁ、そうか)
僕はどうやら懐かしい夢を見ていたらしい。
本当に懐かしい、初恋が実るまでの思い出を振り返るようなその夢はあまりにリアルな夢で、あの頃の記憶だけでなく想いまで鮮明に思い出していた。
それはまるで二度目の初恋をしたようなとても良い気分で、こうして千秋が隣にいてくれることに嬉しさがこみ上げる。
今は当たり前のように隣にいてくれる。あの頃はこんな未来を想像できていただろうか。
すやすやと眠っている千秋の寝顔を見ながら起こさないようにそっと髪を撫でれば、少し擽ったかったのか身動いで僕の手にすり寄ってきた。
そんな無防備な寝姿に目を細め、寝顔にそっとキスをした。
いつもそうだけど、一度キスすると、もう一度……もう一度、と何回もキスをしたくなってしまう。
千秋の寝顔はいつまで見ていても飽きなくて、時間も忘れて見入ってしまっていた。
暫く寝顔を見ていると、モゾモゾと動き出した千秋が目を開けた。
「あれ……修平、なにしてんの?」
「起こしちゃったね。ごめんね」
「ん? 修平はなにしてたんだ?」
眠そうに目を擦りながら千秋は僕に問いかけた。
「千秋を見てた」
なのでそう言うと途端に目を丸くする。
「はぁ!? バカか」
いまだに恥ずかしいと虚勢をはる姿は変わらない。
けど、自分の名前を当たり前のように呼ばれることって改めて幸福なことなんだなって思うと思わず顔が綻んだ。
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