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10.切なくなるほど可愛い人 8

お互いにハァハァと荒くなった息を整えながらどちらからともなくキスをする。 名残惜しいけどずるりと中のものを引き抜けば、余韻に震える千秋が愛しくてぎゅっと強く抱きしめた。 ──幸せすぎて死にそう。 こんな時間をもう少し堪能したくて、千秋の髪をそっと撫でる。 できれば今日は帰って欲しくない。 「……今日、泊まっていけば?」 すると余韻に微睡みながらゆっくり目を開けた千秋は、途端にハッとして慌てたようにキョロキョロしはじめた。 「そ、そんな……」 また何か焦っているらしい。今度は何に焦っているのか。 「僕と一緒にいたくない?」 「そんなわけあるか!」 でも少し挑発するだけで叫んでしまうとこが面白い。 恥ずかしそうにして顔が赤くなってるのもやっぱり可愛いと思ってクスクスと笑えば、千秋はその赤くなった顔を隠すためかベッドに顔を埋めてしまった。 「やっぱり、千秋は可愛いな」 「だから、可愛いとか言うんじゃねぇよ!」 叫ぶ間だけ再び顔を上げた千秋だったけど、僕が笑いかけたらまた顔を埋めて今度は頭まですっぽりシーツをかぶってしまう。 そして、耳を澄ませてみれば何やらブツブツ言っていて、本当に千秋といたら飽きないと思った。 ブツブツ言いながらなにか考えてるみたいだけど、そんな千秋の後ろから覆い被さるようにして頭の部分のシーツを剥ぎ、耳元で囁くように言ってみる。 「やっぱり、帰したくないから泊まって。美味しいご飯も作ってあげる」 するとご飯と聞いて千秋の耳がピクッと動いた気がして、声を出さずに笑ってしまった。 どうやら、僕は餌付けにも成功していたらしい。 「何が食べたい?」 するとおずおずとこっちを見た千秋はボソッと呟くようにあった。 「…………なんでもいい」 「好きなの言えばいいのに」 すると少し目線を外し、伏し目がちのまま「……新藤が作るのならなんでもいい」と言われたその言葉は何よりも嬉しかった。 そういえば姉貴が胃袋を掴めば男は逃げないと言ってたっけ。 なら、千秋も逃げられないね。なんて思いながら千秋の髪を撫でた。 そしてその日は、ハンバーグを食べて、その後もたくさんキスをして、千秋が初めて泊まった日みたいに一緒に眠った。 千秋が腕の中にいることが、幸せで。 「どうしよう。幸せすぎてどうにかなりそう」 なんて言ったら千秋は「うるせぇ」とか言っていたけど。 くっついていたから千秋の心音が速くなってたのもわかって、同じなんだって思うとまた幸せを感じて。 ぐっすりと眠ることができたんだ。 ────── ───…

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