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第1話

月明かりを頼りにたどり着いた坊に、静かに入り込む。 音はほとんどしなかったはずなのに、(しとね)に横たわった人の肩がびくりと動いたのは、まだ眠っていなかったからだろう。 「わざわざ起きて待っていてくださったのですか」 にじり寄って囁きかけてみれば、「あなたを待ってなどおりません」という小さな声が返ってくる。 「それでは、火照った躰を持て余して眠れなかったと、そういうことですか。  慈恩様は、ことのほか淫奔な躰をお持ちでいらっしゃいますから」 揶揄(やゆ)する口調で告げてやれば、慈恩は横たわったままで振り返り、俺をきっ、と睨んだ。 「眠れないのでしたら、私がお慰めいたしましょう」 そう囁いて素早くその細い躰を組み敷けば、慈恩は小さく、だが鋭く「やめなさい」と言った。 「やめさせたいのならば、(あらが)って見せたらどうですか」 慈恩が俺に抗おうとしないのは、俺に力でかなわないことがわかっているからだ。 「そうでなければ、大声を出して人を呼べばいいでしょう」 そして慈恩が人を呼ぼうとしないのは、俺に組み敷かれているところに他人に踏み込まれれば、自らの恥になると思っているからだ。 「どちらもなさらないのは、私にやめさせたくはないからでしょう。  あなたは口ではなんとおっしゃられようとも、本心では私にこうされることを望んでおられるのです」 俺がそう言うと、慈恩は悔しそうな顔になり、それから諦めたように体から力を抜いた。 慈恩は決して本心から私に弄ばれることを望んでいるわけではない。 けれども、私に向かってそう言い切ることができないのは、慈恩の心がそれを望んでいなくとも、慈恩の躰はそれを望んでいるからだ。 その証拠に、寝間着の合わせから手を差し込んで胸の(いただき)に指先で触れてみれば、それはすでに期待で固く尖っている。 素直なその蕾を、指先でなぞるように撫でて褒めてやると、慈恩の唇から微かな吐息がこぼれた。 そのまま寝間着の合わせを割り開けば、闇の中に白い肌が浮かび上がる。 しみ一つない柔らかくなめらかなその肌に、己の幾度もたこが潰れて固くなってしまった手のひらをゆっくりとすべらせると、慈恩は身を固くする。 けれども、指先に引っかかった小さな(とが)りをきゅっ、とつまんでやれば、慈恩は「ぁ……」と小さく艶めいた声を上げた。

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