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1 出撃命令
「出撃が決まった。明日十時、遅刻厳禁。以上」
上官の言葉に、隊員一同声を揃えて「はいっ!」と答え、一斉に敬礼する。
これまでの訓練の中で無数に下されたのと全く同じ口調の命令だった。しかし、その内容は…。
香坂隼人の頭は、一瞬にして真っ白になった。
――出撃。明日。十時。
三つの言葉だけが、空っぽの頭の中をぐるぐると駆け巡る。
隼人たちが属するのは、特攻隊だ。つまり、彼らに対する出撃命令とは、『戦地へ出征して戦闘に加われ』という意味ではなく、『死にに行け』ということ。
――俺たちは、明日の十時に、死ぬために飛び立つ。
上官を見送った後、隼人はゆっくりと首を巡らし、隣に立つ鳴瀬栄司を見た。
幼い頃から見慣れた端正な横顔は、今もいつも通り落ち着き払っていた。
隼人の視線を感じたのか、鳴瀬がふいに顔を向ける。それから少し眉根を寄せ、
「…顔色が悪いぞ、香坂。休みを申し出るか」
と小さく呟いた。隼人は首を横に振る。
「いや、大丈夫だ。行こう、鳴瀬」
明日出撃だろうが何だろうが、今日も訓練は通常どおり行われる。遅れたら彼にまで迷惑がかかる。
鳴瀬が「具合が悪くなったらすぐに言えよ」と言って、軽く隼人の肩を叩いた。その温かい手のひらの感触に胸がつまる。
そのあと、すぐき全員で訓練場へ出て、いつものように陸上訓練や飛行訓練を行った。
それを終えると、宿舎へ戻って狭苦しい住人部屋に入る。綿のへたった煎餅布団が敷かれた固い木製の寝台と、僅かな荷物置きだけでぎゅうぎゅう詰めだ。
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