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2 宿舎
上官の目から離れた途端、緊張の糸が切れたように皆いつもと違う様子になった。無表情で俯いて黙りこくる者、妙に浮わついた様子で調子よく喋る者。
当然だ。明日の今頃には全員、爆弾を抱えて敵に体当たりをして機体もろとも海の藻屑となっているのだから。
そんな中で、鳴瀬だけはいつも通り平静な様子で荷物の整理をしていた。じっと見つめていると、彼がちらりと振り向き、微かに笑った。
「身の回りを整えておかないとな」
その言葉に、他の隊員たちも倣って荷物をごそごそやり始めた。
隼人も同じように小物や衣類の片付けをする。その中から、小さな布袋と、擦りきれた写真が出てきた。出征の時に妹が渡してくれた手作りの御守と、母と妹の写真だ。ぐっと喉の奥が苦しくなる。
俺が死んだら、二人はどうなるのか…。
父親は二年前に南の島で戦死し、母親も病気がちであまり長くはないと言われている。そしてまだ年端もいかない幼い妹。
大学に通いながら働いて大黒柱として家を支えていた隼人だったが、三ヶ月前に召集令状を受け取り、あまりにか弱い二人を家に残して後ろ髪を引かれる思いで徴兵されたのだ。
言葉にならない思いを封じ込めるように御守と写真を鞄の奥底にそっとしまいこむ。すると次は、角が丸くなるほど読み込んだ大学の教科書が目についた。
戦争が終わって徴兵がとけたら大学で研究者になりたい、そういう思いで、勉強を続けるために軍隊にも何冊かの教科書を持ってきていた。だが、もう必要はなくなった。二度と読むことはないだろう。
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