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6 炎
耳が痛いほどの沈黙。二人の呼吸と鼓動の音だけが鼓膜を撫でていく。
鳴瀬の瞳はいつものように静かだが、その奥に炎のような熱情がちらりと燃え上がるのが確かに見える。同じ気持ちなのだ、と確信した。
彼が細く息を吐いて、唇を開いた。
「香坂…」
それから、思い直したようにもう一度口を開く。
「…隼人」
どく、と心臓が音を立てた。
そう呼ばれたのはいつぶりか。昔は無邪気に下の名前で呼び合っていたのに、いつの間にか周囲の友人たちのように互いに名字で呼ぶようになっていた。
でも、大人になった声で昔のように呼ばれると、全身の血が沸騰したように熱くなった。
「…栄司」
隼人も昔のように呼ぶ。ずっとこう呼びたかった。
「栄司…っ」
たまらず声を洩らしたと同時に栄司が動いて、次の瞬間、隼人は抱きすくめられていた。
首筋に、耳朶に熱い息がかかる。ぞくりと肌が粟立った。
「…お前に、触りたい。触りたかった、ずっと…」
栄司の掠れた言葉に、隼人は頷いた。
「うん…俺も。俺も、ずっと…」
そこからは言葉は要らなかった。
ただ熱に浮かされ、抱き合ったまま夢中になって互いの唇を、肌を貪った。何年も封じ込めてきた想いが解放された途端、塞き止めていたものが決壊したように欲望が溢れだした。
気がつくと隼人は寝台に横たえられ、栄司に組み敷かれていた。
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