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5 特攻前夜
「おい、食堂で酒が配給されるぞ!」
仲間の一人が笑みを浮かべながら皆を呼ぶ。特攻前夜には、最期の楽しみとばかりに酒が支給されることになっていた。近所の飲み屋に行く者もいる。
皆が腰を上げ宿舎を出ていく。部屋には、示し合わせたわけでもないが隼人と鳴瀬の二人だけが残った。
「…鳴瀬は行かないのか」
「…香坂こそ、いいのか。久しぶりの酒だろう」
「俺は…いいよ」
「俺も、いらない」
ゆっくりと視線が絡み合う。
今まで何度も、こうやって見つめ合ってきた。どちらも何も言わない。でも、互いに特別な絆を感じているのは分かっていた。
自分たちの間には誰も入れない密な結びつきがある。他の誰とも違う気持ちを互いに持っている。
それは、確信だった。でも、どちらも行動を起こしたり言葉に表したりすることはなかった。ただ、視線だけが物語る気持ち。親友同士の仮面の下に隠した、確かな熱情。
彼が寝台に腰を下ろし、じっと隼人を見つめる。
この眼差しが、隼人は確かに好きだった。これを他の誰にも向けないでくれと、口には出さないが強く激しく願っていた。そして彼はその特別な視線を他の誰にも向けなかった。
ごくりと唾を飲み込む。
今夜が最期なんだ、と唐突に思う。明日には二人とも死ぬ。もう二度と会えないし、話すこともできない。
は、と唇から息がもれた。崩れ落ちるように鳴瀬の隣に腰を下ろす。
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