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8 傷痕
ゆっくりと身体を伏せられる。体勢が変わっただけて妙に気恥ずかしい。振り向いて、なんだよ、と言おうとした瞬間、右肩にそっと触れる指の感触。電流が走ったように震えがきた。
ゆっくりと確かめるように、触れるか触れないかくらいの繊細さと優しさで弱々しく撫でられる。思わず笑みが洩れた。
「もう痛くなんかないから、普通に触って平気だよ」
「ああ…でも」
そこには、大きな傷痕があるはずだった。子供の頃、栄司と二人で木登りをしていた時の。
上を行く彼が足を踏み外したのを受け止めた隼人は、背中から落下して、運悪く折れた枝に背中を削られた。
でも、怪我の痛みなんかよりも、蒼白な顔で隼人の名を叫んでいた栄司の指の震えのほうをずっと覚えている。その後栄司は、泣きながら隼人を背負って、風のような早さで山を駆け下りた。ごめん、ごめんと叫ぶように謝りながら。
「…あの時誓ったんだ」
栄司が唇を寄せ、祈りのような口づけを落としてから、ぽつりと言う。
「俺はいつか絶対にこの罪を償うって」
その言葉が悲しくて、隼人は仰向いて栄司を抱きしめた。
「罪とか言うなよ。俺がやりたくてしたことなんだから」
「…じゃあ、恩だ。必ず隼人に恩返しをする」
「返さなくていいよ、そのまま持っとけよ」
一緒に死ねるだけで十分なんだから、とはあえて言わなかった。黙って栄司にすがりつき、唇をねだる。
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